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「名士」の誇りは屋根より高く

2008年3月22日

  • 筆者 フランス・小笠原めい 未確認絶好物体

写真国道沿いのアンティークショップ。写真夕暮れの村役場。「村長さんの栄誉をたたえて」。去年の5月のものがそのまま冬空に映えている。写真日本人オーナーのホテル・レストラン。地元の人が贈った「MAI」には「日出づる国の僕らの友人をたたえて」のプラカードが。写真柱を中心に施される村祭りの装飾。これも「MAI」と呼ばれる。

 コレーズ地方やドルドーニュ地方などのフランスの中西南部を初夏の陽射しに照らされながら車で行くと、切った松の木にフランス国旗やトリコロール(青・赤・白三色)のリボンがついている「のぼり」のような物を掲げている家を良く見かける。この「のぼり」、名前がちゃんと付いていて、「5月=MAI(メ)」と言う。フランス版、こいのぼり?   

 ちょっと違う。これは地方議員から村長などの「選ばれた代表」さんや、地元の自営業社長さん、つまりカフェやホテルの経営者や商店の主人そして町工場の親方と言った「名士」の栄誉をたたえるものである。

 毎年5月になると集落の男衆は森に入り、松の木を伐採してくる。それに国旗やリボンで飾り付け、「村長さんの名誉をたたえて」「親方の名誉をたたえて」といった看板を添える。この「MAI」を皆で名士の家の前に掲げ、受け取った名士はお礼にお酒や食事を振る舞う。掲げておく期限はあいまいで、松が枯れてみすぼらしくなったら、あるいはクリスマスの飾り付けの際に取り除くなど、人それぞれ。翌年5月までそのまま据え置き、というのもアリだ。

 これが南部でも西端のランド地方になると、少しばかり様子が変わって来る。毎年5月1日、赤ちゃんの誕生、18歳の成人、20、30、40歳……といったきりのいい年齢、定年退職など、その年におめでたい話のある家に、近所の人が、やはり森から切り出して飾りをつけた松の木を「家人の留守中に」門の前に植え込む。受け取った「メデタイ家」の主はお礼にお酒を振る舞う。そして秋、この松がカラカラに枯れてしまった頃、今度はこれを取り除くお祭りを開く。

 5月でなくても「MAI」が登場する場合もある。最近はすっかり減少しつつある「昔ながらの婚礼」では結婚式の3日前に新郎新婦の親戚、友人の男性陣で森に入り松を切り出す。市役所、教会、披露宴会場……と婚礼が行われる場所と新郎の実家の入り口に対で設置して紙で作った花飾りを施す。その日は「MAI」を立てたお祝いで軽食とお酒が振る舞われる。本番を3日後に控え、すでに結婚のお祭りは始まっているのだ。

 いずれにせよ「MAI」を立てる日は、陽気な村人の面々がその下に集う。個人主義が発達しているこの国においても、隣人たちと喜びや悲しみを共有する風習は健在で、田舎町に素朴に突っ立っている「MAI」はその象徴とも言える。

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