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窯のあるうち

2008年4月23日

  • 筆者 モロッコ・小川歩美 きちんとキッチン

写真モロッコ北部でよく見られるこの石窯は家の庭にある。写真窯の入り口写真石窯でパンを焼く様子

 モロッコの田舎の家には、パン焼き用の「窯」がある。朝起きてパンをこねるのは、女性の毎日の仕事。よく食べられている平たい円盤状のパンを焼けないと、女性は一人前とは認めてもらえない。モロッコの人は朝、昼、夕食はもちろん、おやつの時間にもパンを食べるのが習慣だ。

 朝は甘いミントティーと一緒にジャムやオリーブオイルを付けて、お昼は煮込み料理のタジンと一緒に、夕食はスパゲティだって、パンがないとどこか物足りない様子。それくらいパンはモロッコの人に愛されている食べ物である。もちろんパン屋さんもたくさんあるし、どこでも手軽に手に入るのだが、家で焼いたパンは別もの。だから、ほとんどの家庭にガスオーブンがあるのだが、田舎に行くと、ガスオーブンの代わりに窯を持つ家がある。

 形は、イタリアのピザを焼くような立派な石窯だったり、インドのナンを焼くような壷型の窯だったり、地方によって特色があるのだが、どの窯で焼いたパンもガスオーブンで焼いたパンに比べたら、格別に香りがよく、味わいも深く、いくらでも食べられてしまうおいしさだ。

 今回ご紹介するのは山型の石窯。炉の中で薪を燃やして内部の温度を上げる。十分に温度が上がり、薪が灰になったところでまだ熱い灰を左右に押しのけ、焼けた石の上にパンを並べ、炉内の余熱を使ってパンを焼き上げる仕組み。余熱を利用するので、必要以上に加熱して焦げる心配がないのが特徴だ。

 女性たちを見ていると手慣れた手つきでどんどん窯の中にパンを入れていく。一見簡単そうに見えるが、窯の入り口のところに顔を近づけてみただけで熱い。経験がものをいう作業である。

 パンの他にも手作りのお菓子や、肉の塊を焼くこともある。お菓子は一度にたくさん焼けるし、窯で焼き上げたお肉はとても香ばしく仕上がる。

 私の家にもこんな窯があったらいいなと思うが、その仕事量を見ていたら、やっぱり毎日はできない作業だと諦める。薪を灰にし、同時にパン生地をねりあげ、パンを焼き終わるところまですべて一人でする大変な仕事だ。それでも、モロッコの田舎の女性は毎日、家族のためにたくさんのパンをこの窯で楽しそうに焼く。家族で一つのテーブルを囲むのに、なくてはならないのが窯で焼いたパンであり、石窯はモロッコの田舎のうちにはなくてはならない道具である。

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