2009年5月23日
断熱の大切さを伝える政府広告
これから断熱改修を始める集合住宅(左)と断熱改修を終えた隣棟(右)
小学校の古い窓を断熱性の高い窓に更新
既存の外壁の上から断熱材を施す改修事例
暖房が主体のドイツでは、一般的に建物の断熱がしっかりしているということを何度かお伝えしてきたが、それは新築物件や、竣工後に何度か改修された建物に当てはまることが多く、戦前や戦後に建てられた断熱性の悪い築30年以上の建物では、暖房用の化石燃料の消費量が新築の2倍から3倍近いという調査結果が出ている。
そんな断熱性に乏しい集合住宅に住んでいるのが、モロッコ出身のノルディンだ。彼の家には冬期閉鎖される部屋があることを私は知っている。冗談好きの彼は言う。「奥の部屋には行かないでくれよ。そこから先はアルプス並みの寒さが広がっているからね」。確かに扉を少し開けただけで、冷蔵庫のような冷たさが足元へと一気に広がってくる。「断熱が良ければ、この氷河部屋にも温暖化の影響が多少は出るはずだ」と、また冗談を言いながら彼は笑う。
ところでドイツでは、光熱費のことを「第二の家賃」と呼んでいる。その理由は、家賃に暖房費が含まれている場合が多いからだ。家賃とそれに上乗せされる暖房費が別々に書かれている不動産の広告を見ると、ドイツの人が第二の家賃に敏感であることがわかる。最近になって原油の価格が落ち着いたとはいえ、二番目の家賃を今後も据え置くためには、暖房に必要な化石燃料の消費量をできるだけ抑えることが重要だ。
その最も効果的な方法が建物の断熱性を高めることである。そのためドイツ政府は古い建物の断熱改修に対して長期の低金利融資を積極的に行っている。最近の建築関連の雑誌には、断熱改修を勧める政府広告が必ず掲載されているし、それらに関する記事も確実に増えてきた。その効果だろうか、街のあちこちで断熱や窓の改修をしている建物を頻繁に見かけるようになった。
こういった改修工事の費用は家賃に上乗せされることになるが、断熱性が良くなることで「第二の家賃」が安くなれば、暖房費を含めた家賃の総額は据え置くことが可能になる。これは貸す側も借りる側にとっても好都合だ。日本車の燃費の良さが世界的に注目されているけれど、ドイツでは「第二の家賃を抑える低燃費な建築」が求められている。それはまた雇用の安定や拡大につながるとドイツ政府が大きな期待を寄せる政策の一つでもある。
家が暖かくなり、化石燃料の消費が抑えられ、そして新たな雇用も生み出す低燃費建築がさらに広がっていけば、ノルディンの家が快適になる日も、そう遠くはないはずだ。