2009年7月8日
落ち着いた中庭に面して大きく張り出したバルコニーのある集合住宅
広大な中庭に浮かぶ巨大な屋上テラス
鳥たちがやって来る中庭の大木と日光浴ができるテラス
窓辺に洗濯物を干すお母さんの脇では大きな白い日傘の下で若者が笑談中
ドイツの街や欧州の都市に見られる大きな特徴の一つは、通りに面して建物がすき間なく建てられていることだろう。初めてドイツに来た頃、同じような四角い窓がいくつも規則正しく並ぶ街並みに閉塞感を覚えたが、その裏側には落ち着いた大きな中庭が隠されていることを知ってからは、建物に囲まれた空間の持つ不思議な安心感がとても魅力的に思えるようになった。
この中庭は、隣接する建物との境界に囲いや塀があることも多く、大きな空間を自由に使うことはできないのが普通だが、全街区がまとまって開発されたところでは、広大な中庭が広がっている。また中庭が駐車場として使われている場合には、自動車用の門を通じて誰もが自由に行き来できるから、すべてが安全だとは言い切れないけれど、各住戸からの視線が集まる中庭は、防犯という点では安心できる空間の一つだろう。
最近子供が生まれたのを機に新居を探し始めた友人夫妻は、「いま住んでいるところは日当たりが悪いので、開放的な明るいバルコニーのある家が最低条件だ」と熱く語っていたのだが、最近になって「中庭の緑が見渡せるような落ち着いた部屋もあった方がいい」とか、「子供を自由に遊ばせる中庭も使えるところを見つけたい」と言い始めた。近くに公園があったとしても、中庭が持つ独特の雰囲気はやっぱり捨てがたいようだ。
ところで、最近のドイツの若い世代の人たちは、普段の生活の場をあまり隠さない傾向があり、寝室以外の部屋にはカーテンをかけないことも多い。「友人が新しく買ったカーテンは透明だった」という実話もあるくらいだから、家の中を見られることにあまり抵抗を感じない人が増えている。どこにどんな感じの人が、どんな風に住んでいるのかが何となくわかったりすることで、むしろ互いの安心感が生まれるのだろう。
そんな優しい雰囲気を感じ取るのは何も人間だけではないようだ。私が住む家の中庭にある大木には鳥がたくさん集まってくる。この都会に彼らの天敵が数多くいるとは思えないが、絶え間なく聞こえて来るさえずりに耳を傾けると、鳥たちも中庭の安心感が好きなのだろう。その脇では太めのお母さんが洗濯物を干していたり、大きな白い日傘の下で笑談する若者たちがいて、夏の晴れた日の中庭はにぎやかだ。
中庭に面した窓を開けて、そんな光景を見ながら気持ちよくビールを飲んでいる私の姿もまた、反対側に住む人たちに妙な安心感を与えていたりするのかもしれない。