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ブリスベン大洪水被災リポート(10)最終回 2011年をどういう年にするか

2011年4月30日

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写真:内壁の下だけを外したわが家。柱を乾かす必要があり、あと1カ月くらいはこの状態のはず。外壁1枚の状態なので、明け方など結構寒い拡大内壁の下だけを外したわが家。柱を乾かす必要があり、あと1カ月くらいはこの状態のはず。外壁1枚の状態なので、明け方など結構寒い

写真:すす払い中。普段しない体勢なので、意外と疲れる拡大すす払い中。普段しない体勢なので、意外と疲れる

写真:階段下の倉庫に潜り込んだところ。これはまだ楽な体勢(Koko YANAGISAWA撮影)拡大階段下の倉庫に潜り込んだところ。これはまだ楽な体勢(Koko YANAGISAWA撮影)

写真:階段下の倉庫の床に寝転がりながら、『ダイハード』中(Koko YANAGISAWA撮影)拡大階段下の倉庫の床に寝転がりながら、『ダイハード』中(Koko YANAGISAWA撮影)

 洪水の約20日後、大工さんに来てもらい、内壁のプラスターボード(石膏ボード)をはがしてもらった。このブラスターボード、遮音性や耐熱性、さらに耐火性などが高い優れものなのだが、湿度に弱い。ふやけて湾曲してしまい、またそのままにしていると内部でカビが大量発生するとのことで、取り払って交換してもらうしかない。

 はがしてみると、内壁に囲まれた床にも1ミリほどの泥が堆積していた。これをコツコツと除去し、防カビ・抗菌効果のある洗剤で何度も磨くのは、大工さんではなく私の役目だ。

 そんなこんなで、家の外見上はなんともないのに、作業は意外に長引いた。被災後10日間くらいは、1日約10時間掃除や片づけ。その後も1日平均4〜5時間程度にペースを落としたが、1カ月近く作業を続けていた。

 その間に、私は一つのことを心に決めていた。それは「被災を言い訳にしない」である。被災はした。だが、自分や家族、親しい友人が命を落としたわけではない。家屋は損傷したが、全壊または半壊になったわけではない。フリーランスの物書きだから、もちろん勤め先から解雇されることなどない。そんなたいしたことない状態なのだから、うまく行かないことがあっても絶対に被災のせいにはしないと誓った。いや、うまく行かせることにした。あとで振り返ったときに「2011年は大洪水に被災した年」ではなく、「被災したけれども、飛躍した年」にしようと決めた。仕事は例年以上に充実させよう、と。

 ただまあ、実際問題として、毎日4〜5時間くらいを掃除などに費やしながら、仕事も今まで以上にしようとすると、1日24時間のどこかから時間を取ってこなくてはいけない。削りやすいのは、睡眠時間。だから被災の8日後、電気が通ってからはずっと4〜5時間睡眠の状態が続いていた。理想は9時間睡眠のロングスリーパーの私としては異例の短さだ。

 単純で、しかもじっと同じ姿勢をとり続けることもあれば、変な体勢になることもある清掃作業は、つらい。こういうときは、何かたのしいことを考えるに限る。たとえば、壁どころか天井にまで飛び散ったプラスターボードや砕いたタイルの埃を、使い捨ての化学雑巾を棒の先につけて掃除をしたとき。「えー、ただいまブリスベンの柳沢家では、季節外れのすす払いが行われております」と、心の中でアナウンスを入れてみる。少しだけだがたのしくなる。

 階段下の狭い倉庫に潜り込み、這いつくばったりあおむけになったりしながら拭き掃除をしたとき。こうした狭いところで無理な姿勢をさせながら頑張らせたら世界一のあの人の気分になって、こんなセリフをつぶやいてみる。「ヒーローっていうのは、女房子どもに見向きもされず、たった一人で泥掃除をするヤツのことだ。他に誰もいないからやってるが、代わりがいればオレはいつでも降りる」。そう、映画『ダイ・ハード』のジョン・マクレーン役のブルース・ウィリスね。

 そんな感じで気合を入れながら、かつ無理やり気味にたのしみながら清掃作業を続けてきたのだが、ある日の午後、そいつはいきなりやってきた。腰にピシッと激痛! 思わず叫び声をあげてその場でしゃがみこんだ。ぎっくり腰だった。

 その後3週間、作業は完全に中断になった。最初は立ったり座ったりするのも一苦労で、妻や子どもたちにも迷惑をかけた。

 前回も書いた通り、妻は咳が止まらなくなるので直接的な清掃はできず、後方支援に回った。子どもたちは学校だ。毎日毎日、一人黙々と単純作業を続けながら、その状況を恨めしく思ったことがないわけではない。

 だが、みんなに頼らないと生活できない体に一時的にではあるけれどもなってみると、人間は誰かに頼らなければ生きていけないということがわかるようになる。普段は気づかないけれどもお世話になっていることが多いと、理解する。そして、「ありがとう」と素直に言えるようになる。あたたかい気持ちになれる。それはそれで、一つの収穫だった。

 被災はつらい。でも、勉強にもなる。2011年は「つらかった年」ではなく、「いろいろ学べた年」にしたいと思う。いや、する!

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