2011年5月15日
収納や整理整頓についての話題となると、きまってドイツの人たちの奇麗な暮らしぶりが引き合いに出されることが多いようだ。それは身だしなみなどの清潔さというより、住まいや執務空間で見受けられる秩序立てられたしつらえなどから、つねに端正で理路整然としているという印象を受けるからだろう。
これまでのドイツでの生活を振り返ってみても、彼らの整頓能力には何ども感心させられてきた。普段は、ややだらしなく思えるような友人であっても、家の中は丁寧に片付けられているし、職場も机の上から書類の管理にいたるまで、あらゆるものが奇麗にまとめられている。
それには子供の頃からの躾も大いに関係していると思うが、一つ絶対に忘れてならないのは、地下室の存在であろう。これを抜きにしてドイツの収納は語れない。戸建てや集合住宅だけでなく、事務所建築にも収納用の地下倉庫が設けられている。つまり、普段使わないものは、すべて地下室が引き受けているのである。
生活の中心には必要最小限度のものだけを置いて、空間をできるだけ広く使う。ドイツの家の中にものが少なく、つねに整頓されているように見えるのは、何でも詰め込んでおける地下倉庫があるお陰なのだ。友人の多くが言う。「段ボール箱や読まなくなった本、片付かないものや、すぐに捨てられないものは、すべて地下室行きだよ」
すてきな住まい方をしているお宅に招待され、奇麗な部屋を見せてもらったあとに、地下室の話をするのは避けた方がよいかもしれない。苦笑いする人もいれば、手のひらを向けて、「降参」というしぐさをする人もいる。「それは聞かないでくれ」ということだろう。つねに整理された住まいを維持し続けるためには、それを支える陰の部分が地下に隠されているのだ。
実は私が住む集合住宅にも地下室が存在する。建てられたのが1880年代と聞いているから、築130年くらいだろうか。ここには木で囲った3畳くらいの物置が四つあり、各入居者が使えるようになっている。大きくはないけれど、独特の湿気さえ気にしなければ、何でも引き受けてくれるから実に便利である。
いつだったか友人の実家の地下倉庫を一度見せてもらったら、彼の祖父母が使っていたと思われる数世代前の化石のような代物がうずたかく積まれていた。「これを一体誰が片付けるのかが問題だ」と友人は嘆く。だから、すべてのものを受け入れてしまう地下倉庫を開かずの間にしておきたいという人も、もしかしたらたくさんいるのかもしれない。
ドイツの地下室はもはや、収納の「裏ワザ」ならぬ、「裏側」そのものだと思うのである。