2011年7月27日
ペルーで家具付きの賃貸アパートを探していた時のこと。その大家は「日本人はきれい好きと聞くから、君たちが借りてくれるとうれしい」「たばこも吸わないなら、家が汚れないから助かるよ」と私たちとの賃貸契約を強く望み、「最低2年住んでくれるなら」と家賃もこちらの希望に合わせてくれた。
海外生活をする上で、こうした縁は大切にしたいもの。ましてや日本人ならと信用してくれたこともうれしかった。いい物件といい大家に出会えたことを喜びながら、早速賃貸契約を交わすことにした。
契約日当日。大家は契約書とは別に、ある書類を準備していた。それは「賃貸物件に付帯する家具及び備品項目」について、というものだった。家具付き物件だから当然といえば当然だが、驚いたのはその項目の細かさ。「寝室のドアノブ:メーカー○○、真鍮製、丸型」「コンセントカバー:白、四隅が丸くなっているタイプ」など、びっくりするほど念入りに記載されていたのだ。
実はこれ、ペルーでは当たり前のことらしい。壊す可能性があるからではなく、「盗むやつがいるから」だそうだ。ドアノブやコンセントカバーなんてどうするのかと思うが、ペルーにはこういった備品を単体で売買できる闇市があるため、高価なドアノブを安物に取り換えてしまうやからもいるという。ペルーでは、ドアノブ一つまでしっかり管理するのが習慣というわけである。
また、このアパートを退去する際「壁の全面塗り直し」を依頼された。たばこも吸わず手垢もつけず、どこも汚れていないのになぜ塗装の必要があるのかと抵抗したが、これもこちらの習慣だと言われた。ペルーの賃貸物件では壁を塗り直し、見た目を「初期化」してから退去するのが一般的。逆を言えば、住んでいる間は壁を汚しても他の色に塗り替えても構わないのである。だからいくら異議を唱えても「汚さなかったのはあなたたちの勝手でしょ」と言われてしまうのがオチなのだ。
結局、大家が我が家と契約したがった理由は「物を盗む確率が低いだろう、家を汚すことがないだろう」という虫のいい勘定によるものだったと思われる。一方で、備品項目書類へのサインや壁の塗り直しといった彼らの習慣はしっかり押し付けてくるのだからちゃっかりしている。「人を簡単に信じるなかれ」というのもまたペルー的習慣なのかもしれない。