2012年1月14日
景観の問題からか、首都リマ、特に新市街では洗濯物を人目につく場所に干すことはない。洗濯物は室内の洗濯場に干すか、乾燥機を使うのが一般的だ。室内の限られたスペースでも効率よく干せるよう、当地には「テンダー」なる道具がある。これは天井につるしたステンレス製のさおを滑車とひもで上下させる、いわば室内用の物干しだ。たくさん干してもテンダーを天井まで引き上げてしまえばそれほど邪魔にならないし、大きなシーツや毛布まで干せるなかなかの優れモノである。
リマは砂漠気候なので、大気が乾燥する夏にはまたたく間に洗濯物が乾く。一方、冬は濃い海霧の影響で湿度が高くなり、室内の物干しは一苦労だ。わが家では配管上の問題で乾燥機が使えず、アイロンで代替しているが、いたずらに時間だけが過ぎていくこの単調な作業には毎年へきえきしている。
リマの住宅でも、戸建てやアパートの最上階などは干し方に煩わされることもない。庭や屋上など、要は通りから洗濯物が見えなければいいのだ。屋外ならいくら干しても邪魔にならないし、風通しがいいため冬でもそれなりに乾く。風にはためく洗濯物、なんとも郷愁を誘うではないか。
ところで、ペルー人には概しておうような性格の持ち主が多いが、そのおおらかな干し方には郷愁を通り越して思わずため息が漏れることもある。例えば服と服がぐちゃぐちゃに重なり合っていたり、洗濯物が地面に触れてしまっていたり。リマを離れるほど大雑把度は増していき、植木や石垣、屋根の上にまで干していたりする。しかし服を広げる前に屋根の砂ぼこりをはらった様子もなく、これではせっかく洗ってもまた汚れてしまいそうだ。
テンダーがなくても、庭木に縄を結ぶだけで立派な物干しができるのに。もしかしたら砂は自然のものだから汚くない、皮脂や食べ物のシミが取れればよいという考えなのだろうか。それなら風にたなびくように干す必要も、屋根に積もった砂ぼこりを気にすることもない。その上、縄やハンガー、洗濯バサミも不要となる。いつかまた屋根の上の洗濯物を見かけたら、住人に理由を聞いてみたいものだ。