ドイツの西部を南から北へ向かって絶え間なく流れるライン川の要衝の地として、ローマ時代から発展してきた大聖堂の街ケルンは、ドイツの一都市でありながら、ドイツらしからぬ面がある。一般的に笑顔が少なく、無愛想で、冗談も解せないといった先入観を持たれることの多いドイツの人たちだが、それはケルンに住む人たちには、あてはまらないどころか、彼らは「この陽気で温かい心は世界に向かって開いている」と言ってはばからない。
そう、ケルンという街の魅力は、ドイツの中でも特におおらかで、楽天的な一面を持ち合わせているケルンの人たちそのものであり、そんな彼らがつくり上げて来た街には開放的な雰囲気があふれている。それは、2000年という長きに亘って繁栄を謳歌してきた歴史がいまも息づいているからであり、一年に一度、飲んで歌って踊り明かすカーニバルが、この街に住む人たちの明るい性格に極めて大きな影響を与えていることは間違いないだろう。
市電の中で、友人が新しく買ったサングラスを試しにかけてみると、隣に乗り合わせていたおばあさんが、いきなり「クールよ!」と反応する。瓶ビールをケースごと買ったときに、その半分近くをリュックサックに入れ、ケースを軽くして運んでいると、孫らしき子供を連れた年配の女性が、すれ違いざまに、「あなた、家に帰る前に、もう半分も飲んでしまったの!」と冗談を飛ばしてくる。そんな明るいやり取りが繰り広げられる街がケルンなのだ。
そして、そんな人たちの日常を支えているのが、ケルンの地ビール「ケルシュ」である。入れ立ての冷たいビールを、200mlの小さなグラスで粋に飲むこのケルシュを抜きに、この街の魅力は語れない。上面発酵の口当たりの軽いケルシュビアを飲むほどに、ケルンという街をより深く知ることになる。しかも、無頓着で世話要らずと言われる地元の人たちと一緒にケルシュを楽しめば、誰もが世界に向けて心を開くことさえ可能になってしまう。
フランクフルトとアムステルダムを結ぶ南北方向の超高速新幹線と、ベルリンとパリ間で整備が進む東西鉄道網のちょうど中間に位置するケルンは、人と文化の重要な交差点としての役割を担うだけでなく、明るくておおらかな人たちと、ケルシュビアに支えられて、さらに懐の大きな街へと変貌を続けている。ケルンは、一度、訪れた人を大きく包み込み、そして抱きしめたまま離すことを知らない世界に向かって開いた麦酒文化都市なのである。