倹約に対する意識が高いドイツでは、水道光熱費のことを「第二の家賃」と呼ぶ。なかには、気にすることなく浪費型の生活を享受している人もいるかもしれないが、ドイツに限らず、私も含めて大抵の人はできる限り抑えたいと考えているに違いない。
そしていま、節電が大きく取り沙汰されている日本では、同じ明るさで電力消費量を大幅に削減できる新しい照明器具が脚光を浴びており、ドイツでも関心が高まっている。新築物件では標準仕様で使われている場合もあるが、一般家庭における普及という面では、日本ほど早くはないように思われる。それには家の中の明るさが大きく関係しているようだ。日本の人が欧州へ来たときによく指摘されるように、そもそも家の中が暗いのだ。誤解のないように言い換えれば、空間全体を均一に照らし出すのではなく、必要最小限の明るさしかないのである。
ドイツを含めた欧州諸国では、家の中に陰影をつくる照明手法が好まれる。一つの照明器具で室内をすべて明るくするのではなく、小さな光源をいくつか分散することで、空間を柔らかく分散して照らし出す。それはまた、陰のある暗い部分も生み出すことになる。あるいは、夏も冬も、ろうそくを灯して、ほのかな明るさを楽しむ文化があるから、もはや節電という域を越えた低燃費な生活をしている人たちが多いのかもしれない。
最近では、日本の状況も変わって来たようだが、それでもまだ天井に設けられた蛍光灯をつけて、家の中を白く満遍なく明るくさせているお宅は、かなり多いのではないだろうか。節電意識の高まりから、照明器具を低電力型に変えるにしても、いままでと同じ明るさを確保するのが前提になっているように思う。
夜の生活にとって必要な明るさとは何だろう。それは空間のすべてを照らし出すことではなく、ほどよい照度と陰影を共存させることかもしれない。柔らかな雰囲気が演出され、しかも節電につながるとしたら、こんなに素敵なことはないはずだ。明るさだけを追い求めるのではなく、夜の暗さを適度に楽しむことができるなら、ほどほどの電気だけで、生活がより豊かに感じられるのではないかと思う。