埼玉県富士見市に住む80歳と78歳の姉妹が「悪徳リフォーム業者」の食い物にされていたというニュースは、全国に衝撃を与えた。認知症(痴呆症)の二人はほかに身寄りがなく、孤独な生活につけ込んだ業者たちの「商売」はタチが悪い。彼らを撃退するには、いったいどうしたらいいのか――。
◇
老姉妹宅を調査した1級建築士、石田隆彦さんは押し入れから天井裏を覗きこんだ瞬間、息をのんだ。
「目の前に無数の黒い棒が見えたんです。新しい耐震金具でもできたのかなあと思ったんですが……」
よく見ると、それは床下で土台を支えるために使う「鋼製束」だった。ズラリと70〜80本。もちろん何の役にも立たない。
木造2階建ての姉妹宅は、とことんしゃぶり尽くされていた。天井裏や床下に所狭しと置かれた耐震器具、換気扇、調湿材、断熱材――。それらは、領収書などで確認できるだけで3年間に16業者、約3600万円分。全体では5000万円に上るとも言われる。その間、約4000万円あったという姉妹の貯金はすべて引き出され、約700万円のローンまで組まされていたのだ。
老姉妹は68年、母親と一緒にこの地に移り住んだ。姉は特許庁で英文タイプの仕事をし、妹は証券会社に勤めていたという。姉は、早い時期から痴呆の症状が始まっていたらしいが、妹は数年前までしっかりしていたようだ。
「妹さんが退職後に飼い始めた犬が3匹いてね。2、3年前に相次いで死んでしまって、それから痴呆が始まったみたいです。でも、二人とも日常会話は案外しっかりしているんですよ」(近所の住民)
二人の性格は対照的だ。社交的でおしゃべり好きな姉に対し、しっかり者で寡黙な妹。この性格の違いが、業者たちに都合が良かったようで、まず姉をうまく持ち上げて契約させ、金庫番の妹を車に乗せて銀行へ連れていくというパターンができあがっていたらしい。
近くの主婦が言う。
「近所で『一度、工務店に見てもらったほうがいい』と言ったこともあるんですが、『あんたたちには関係ない。ご近所の世話にはならない』と言われちゃって。もう聞く耳も持たなくなっていたんです」
もっとも、いまだに本人たちに、だまされたという自覚はないという。
「説明しても『まあ、ひどい話ねえ』と他人事。彼女たちは、いまもあの家で何事もなかったように暮らしています」(石田さん)
こうしたケースを、それこそ「他人事」と思っている人も多いのではないだろうか。しかし、建築コンサルタントの竹島清さんは、こう指摘する。
「これが特例と思うのは大間違い。痴呆であろうとなかろうと、これに準じる例はいくらでもありますよ」
業者はある日、突然やってくる。呼び鈴を鳴らすと、玄関先でこう大声でぶち上げるというのだ。
「あ、お宅、ヒビが入ってますよ。樋も曲がってる。雨漏り寸前ですよ」
そして続けざまに、
「次に地震が来たら、もうおしまいですね」
いきなりこんなことを言われたら、独り暮らしのお年寄りでなくても、オドオドしてしまうだろう。
「それが彼らの手口なんです。まずは驚かせて冷静さをなくす。オレオレ詐欺と一緒ですよ」(竹島さん)
さて、これにどう対処すればいいのか。その前にもう一つ例を挙げておこう。
秋田市内の会社員女性(55)は5年ほど前、埼玉県内に住む兄(59)から電話を受けた。
「おふくろが突然、『お金を貸してほしい』と電話してきたんだが、いまいち話がよくわからない」
母親(81)に聞くと、どうも要領を得ない。86年に元刑事の夫を亡くしてから秋田市内で独り暮らしだったが、足腰は丈夫で読み書きも達者。年金はあるし、夫の退職金の残りも1000万円ほどあったはずだった。
●最近のはやりは「耐震器具」販売
ところが、
「母の預金通帳を見て唖然としました。1000万円あった貯金がゼロになっていたんです。『おらの葬式費用に』と手をつけずに置いていた貯金がスッカラカンです」(会社員女性)
問いつめると、母は「家の修理に使った」と説明。92年から00年までの8年間に計1000万円が5社以上の業者に支払われていた。
「母の家には毎月のように業者が訪れたようです。どの業者も、若くてほっそりした、孫みたいな担当者を寄越してきた。最初の決まり文句は『無料で点検しますよ』。点検が終わると『屋根が崩れてくる可能性がある』『床が落ちるかもしれない』と言う。さすがに母もビックリしたらしい」
やはりここでも、「不安感」につけ込む手口が共通している。
冒頭の石田さんによると、訪問業者の傾向は、かつてのシロアリ駆除の時代から、屋根のふき替え、換気扇、調湿材と移り変わり、最近のはやりは「耐震器具」。全国的に頻発する地震のおかげで、すっかりセールストークに定着したという。
口が達者な営業マンへの対処はなかなか難しい。先の竹島さんが指南するのは、
「危険個所を指摘されても、決して『え、本当ですか?』と言ってはいけません(撃退法(1)。『ああそれ、わかっています』と言い切って、話を聞かないこと」
もっとも、そんなことで引き下がる相手ではない。さらに畳みかけてくる相手に対して言う言葉は、
「じゃあ、息子(夫)と相談するから(2)」
この場合、息子が本当にいようがいまいが構わない。「大工の息子」「警察官の息子」といったアレンジも効果的。「うちは借家だから」と逃げる手もある。
それでも食い下がって、「仮契約だけしてくれ」と言ってくるかもしれない。そこで、こう言う。
「じゃあ、知り合いの設計事務所を入れるから、一緒にお話ししましょう(3)」
竹島さんが言う。
「家族で話し合っても内心、誰もが『うちもそろそろやらないと』と思っている。そこで適当なチラシから選んだら致命的。業者はたいてい裏でつながっていますから。建築士に相談しても、業者と同席して見積もりなどを見てもらうだけなら数万円程度。設計者と施工者は牽制し合う間柄なので、口にするだけで違います」
さらに、言わずもがなだが、最後にものを言うのは書面だ。個人向け不動産コンサルタント「さくら事務所」(東京都中央区)の主席コンサルタント、神尾和秀さんがこう指南する。
「見積書、契約書、仕様書を残すことが重要です(4)。住宅リフォーム推進協議会の『請負契約書』などを使うのがいいでしょう。あと、耐震補強などは綿密な計算に基づかないとかえってマイナスなので、図面を要求すること(5)。逆に言えば、こういう書類が出てくるかどうかが、業者のチェックになるんです」
(週刊朝日・鈴木毅)