悪徳リフォーム業者が相次いで逮捕される物騒な世の中。築30年にもなるわが家にリフォームが必要なのはわかっているけれど、みすみす彼らの獲物にはなりたくない。さて困った。「いい業者」はどうやって選んだらいいのだろう?
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1級建築士の松田力さん(55)は最近、こんな経験をした。
東京都世田谷区に、妻の両親が住んでいる。築32年の木造2階建てに、80歳の義父と72歳の義母が二人暮らし。数年前からリフォーム業者がたびたび訪れるようになっていた。
あまりのしつこさに根負けした二人は、あるとき、ついに業者を家に上げてしまう。そして、散々脅かされた。
「雨漏りの恐れがある。屋根を支える小屋組も危ない。基礎の一部も腐ってる」
そこで、娘婿の松田さんが呼ばれた。天井裏から基礎、土台、柱など徹底的に調査した結果、
「一部腐っている部分もありましたが、柱には影響していないので、知り合いの大工に頼んで簡単な修理ですませました。妙な改築工事をして構造体をいじめるよりも、そのまま住み続けるほうがベターだと判断しました」(松田さん)
これが1、2年前の話。ところが、今年6月末に再び「事件」が起きた。
なんでも40代くらいの感じのいい営業マンが来て、
「ここの台所、脱衣室も150万円くらいできれいになります。1週間の工事でピッカピカになりますから。いまならシステムキッチンは半額です」
この売り文句にほだされ、義父が工事費200万円の契約書に印鑑を押してしまった。松田さんが言う。
「確かに台所と脱衣所の『水回り』の改修工事は、そろそろ必要になっていました。義父も、改修したいという思いをずっと持ち続けていた。でも、私に迷惑をかけたくなかったようで、『多少高くても』と家に上げたんでしょう……」
中古の購入者や定年前が「危険」
さて、その見積書を細かく見てみると、首をひねらざるを得ない代物だった。
まず、「システムキッチン製品代」として、58万8300円が50%オフで29万4150円となっている。お得な感じがするのだが、
「よく見てください。メーカー名はありますが、製品の型番がない。これでは、何が入るのかまったくわからない。値段だって、これが本当かどうか判断できない」(松田さん)
それどころか、この項目では、キッチンフードや換気扇は付いているのかなどもわからないのだ。
「水道の蛇口についても、それが付属なのか、水道管とつなぐ工事はどこがやるのか、いくらなのか、などまったく書いてません」
見積書には「カッティングボード 5800円」という項目もある。
「まな板? 何ですかね」
「照明交換」の項目にしても、どこの照明が入るのか書いていない。
そのほか、「フローリング施工」が坪10万5000円で計52万5000円。
「破格です。私が仕事で使う最高級のもので坪1万7000円程度。書いてあるメーカーの商品でも、調べたら坪2万6000円だった。工事費が一緒になっているからといって、高すぎます」
一見、きちっとした見積書に見えるが、すべてがこの調子。
「単価、数量をチェックしていて、途中でばかばかしくなってきましたよ。そもそも図面がないのがおかしい。まず図面を描いて、そこに入れる製品を決めて、それらを積み上げて計算していくものなんです」
結局、松田さんの登場で業者は手を引き、リフォーム話は振り出しに戻った。
それにしても、これだけ悪徳業者が話題になっているのに、なぜ――。ここでのポイントは、義父が、
「常々リフォームをしたいと思っていた」
「できることなら人に迷惑をかけずにやってしまおうと思っていた」
という2点だろう。こうした思いは、多くの人に当てはまるのではないか。
NPO法人「建築Gメンの会」理事長で1級建築士の大川照夫さんが言う。
「ちょうど定年を迎えるころも危ない。早く家を建てた人や、中古で買った人には、このまま住み続けられるのか焦りがある。ある程度のお金をかけても今のうちにやらなくちゃという人が、引っかかるんです」
国民生活センターのまとめでは、リフォーム工事に関する苦情のうち8割近くが訪問販売(5年間で約3万7500件中約2万8800件)。身元判明分のうち、60歳以上が約1万4000件で過半数を占めるが、むしろ注目すべきは、50代で約5900件、40代で約4500件、30代でも約2400件あることだろう。つまり、実際には若い層でも、かなりの人数がだまされているのだ。
悪徳業者の手口は、ますます巧妙になっている。
大明建設(東京都世田谷区奥沢)で改修工事を担当する三宅功二さんが言う。
「先日、うちが建てたお客さんに呼ばれたんですよ。近くに高層ビルが建って、地域がケーブルテレビに移行するので、業者が『アンテナを2000円で撤去します』と来たというんです」
業者の一人が屋根に上ると、上と下で何やら話し始めた。ちょっと屋根がおかしい……。聞こえるか聞こえないかくらいの会話だ。
「それで『補修しないと大変』と持ちかけるんです。じゃあ、屋根だけならばと契約すると、今度は『どうも壁がおかしい』と数百万円の契約です。私が見たところ、早急に直すべき状態ではなかったので、すぐにクーリングオフしました」
「アスベスト」が最近の売り文句
さらに三宅さんによると、業者の間では、ちょっと前から流行っている「耐震器具」販売に加え、
「最近では、『アスベスト』を売り文句にしているんですよ。確かに、一時期の屋根瓦には原材料にアスベストが入っている。だけど、むしろ屋根をはがしたほうが、割れるなどしてよっぽど危険。この商魂には、驚くばかりですよ」
国土交通省の外郭団体「住宅リフォーム・紛争処理支援センター」の担当者が、こうアドバイスする。
「まず、訪問販売で契約するのはやめるべきですね。あれは換気扇や耐震器具の押し売り業者。完全に別物と考えたほうがいい」
それでもリフォームは必要だ。どうやったら「いい業者」に巡り合えるのか。
松田さんが言う。
「素人が、金額どおりの工事かどうかを見極めるのはほとんど不可能。悪意があれば、簡単にだまされてしまう。だから、信頼できる業者を見つけてこっちから発注するしかないんです」
専門家たちの言う業者選びのポイントとは――。
まず、家を建てたときの建築士や工務店がいるならば、その人にお願いするのが手っ取り早い。ところが、築30〜40年にもなると、すでに亡くなっていたり、辞めていたりする場合も少なくないのが問題だ。
そこで、次善の策としては、親戚や友人、知人をたどる。すでに人間関係があれば、自然に「信頼感」も生まれるというものだ。
いくら考えても何のツテもないという人は、公共団体に相談するのがいい。県の建築住宅センターや市役所の建築指導課など自治体には担当がいるし、建築3団体と呼ばれる「日本建築家協会」「日本建築士会連合会」「日本建築士事務所協会連合会」や、住宅金融公庫に相談するのも手だ。
そのほか、電話帳やリフォーム雑誌から抜き出した業者の評判をチェック。前出の住宅リフォーム・紛争処理支援センターが運営する情報サイト「リフォネット」も便利だ。
そうこうするうちに、10社くらいの情報は集まるはず。ここから絞っていく作業に入る。
まず重要なのは、自宅から1時間以内の地域にあること。「地元密着」であれば信頼できるし、近いと余計な人件費もかからない。
そして、過去1年間の実績を聞いてみる。ちゃんとした業者ならば、こちらが名乗らずとも、きちんと対応してくれるはずだ。ここでは、数字が他社と比べて多すぎても少なすぎても、避けたほうが良さそうだ。
各種資格の有無も有効な判断材料だ。
「都道府県知事の『建設業許可』を持っているほうがいいでしょう。『水回り』なら、自治体には水道工事の指定業者がいます。『耐震』ならば日本建築防災協会、『白アリ駆除』ならば日本しろあり対策協会に加盟していることなどが、一つの安心材料になります」(先の支援センター担当者)
メーカー、品番見積書にあるか
実際に会社へ足を運んでみることも、お勧めする。外から眺めるだけで、雰囲気がつかめるはずだ。
「あと、必ずやってほしいのが、3社ほど『相見積もり』を取って比べること。もちろん安ければいいというものではない。金額の根拠などを聞けば、やりとりで信頼性も判断できます」
冒頭の例でも明らかだが、見積書の書き方にはチェックポイントがある。
「ちゃんとメーカー、品番、数量まで入っているか。『工事一式』などとなっているのは、危ない。突き詰めて内容を聞いて、書き込んでもらうことです」
「単価」が材料費と工事費(手間費)で一緒に出されている場合もあるが、これは別々に計算してもらったほうが無難だ。工事費は、大工1人で1日2、3万円程度と考えておいていい。「諸経費」については、総工事費の10%前後ならば、妥当といえるようだ。
そのほか、訳のわからない項目があったら、問いつめること。逆に、実際に工事が始まってみると、
「見積書には『カセットトイレ』とか書いてあったのに、どうもそれらしきものがない」
なんてこともあるので、常に確認が大切だ。
さて、いざ契約するときも、契約書に添付する契約約款に注意が必要だ。
「気を付けないといけないのが、着工前の『違約金』条項。工事費の2割とか3割とか書いてあったら、おかしいと思っていい。普通の工務店ならば、工事前の違約金は取りません」
工事終了後は、責任者と一緒に確認する。ここでは、「一緒に」というのがポイント。後からの言い分の食い違いを防ぐためだ。「工事完了確認書」を取り交わすのも忘れずに。
以上、いくつか注意点を挙げたが、住宅リフォーム推進協議会のホームページに「見積書」「契約書」「契約約款」などの書式があるので、これも参考にするのがいいだろう。
最後にもう一つ。
「いちばん重要なのは、最初にどんなリフォームをしたいかきっちり詰めておくこと。夫婦間の意思確認も大事です。後で『オレは聞いてないぞ』などと、もめるのはザラ。結局、変更ばかりして無駄にお金がかかるというのがパターンです」(支援センター担当者)
(週刊朝日・鈴木毅)