緑豊かで、環境抜群、駅に近くて、万全の管理態勢……だれもが一度は住んでみたいとあこがれるそんな住宅が、「ヴィンテージマンション」である。首都圏と近畿圏の築10年以上の物件の中から、ヴィンテージにふさわしい物件をランキング。現地に足を運び、時を経ても変わらぬ魅力を保ち続ける秘密を探った――。
◇
ヴィンテージという言葉の響きには、どこかそこはかとなく贅沢で芳醇な香りが漂う。もともとはワイン用ぶどうの収穫年を表す言葉であるヴィンテージ。つまりクルマやジーンズにヴィンテージをつけるのは誤った用法であるのだが……。そんな日本独特のヴィンテージ市場に新たに登場した商品が、ヴィンテージマンションである。
このところ住宅雑誌などでよく目にするようになったこの言葉。いったいどんなマンションなのだろうか。
不動産専門のデータバンク、東京カンテイ市場調査室の中山登志朗主任研究員に聞いた。
「ヴィンテージマンションの定義というのは簡単ではないんです。要素には、立地、建物のデザイン、希少性、市場の人気などがあります。ただこれらはなかなか数字に表すことができないので、相対的にヴィンテージ度を比較できる基準を設ける必要があるのです」
東京カンテイのデータから、首都圏と近畿圏で、
・築10年以上
・坪単価300万円以上(近畿圏150万円以上)
・平均専有面積70平方メートル以上(近畿圏50平方メートル以上)
という条件に当てはまる物件を、坪単価順にランキングした。
首都圏1位、つまり全国1位となったのは、広尾ガーデンヒルズサウスヒルD棟(東京都渋谷区)。
バブルが始まったとされるプラザ合意(1985年)の翌年に竣工したこの物件、当時の坪単価426万円が、現在の中古流通価格では535万円となり、築20年ほどたっているにもかかわらず、なんと約1.26倍に値上がりしているというから驚きだ。
現地は地下鉄日比谷線の広尾駅から徒歩5分。大きな木々に囲まれた坂道を上っていくと、茶色いタイル張りの瀟洒な建物が目に入る。聖心女子大と日赤医療センターに囲まれた広大な敷地内に、AからOまでの15棟が連なる巨大マンション群である。D棟の入り口には3メートルはあろうかという荘厳な門扉がそびえ、常駐する管理人が不審者の出入りに目を光らせている。
10年前に南麻布から移り住んだ60代の男性は言う。
「世間の評判が良かったというのが、ここを選んだ理由です。管理がとてもしっかりしているし、緑が多い。不動産屋から売ってくれないかとよく電話がかかってくるけど、今のところは売る気はありませんよ」
86年の竣工時から住んでいる50代の女性も、
「ここが資産価値の高いマンションだとは知ってますが、なんだかピンときませんね。20年前とは周りの環境は変わりましたが、引っ越すつもりはありません」
と、ここでの暮らしに何の不満も持っていない。
「広尾ガーデンヒルズD棟の物件はなかなか売りに出ることがないし、出たとしてもすぐに買い手がついてしまいます。それだけ住人の満足度が高いんでしょうね」(地元不動産業者)
D棟の平均専有面積は約165平方メートル。これを中古で購入しようとすると、なんと2億6000万円という値段がつくことになる。
「この物件は、住友、三井、三菱の大手ディベロッパー3社がJV(共同企業体)を初めて組んだ話題の物件。失敗が許されない、ヴィンテージ化が約束されたマンションだったといっていいでしょう」(中山氏)
同じ広尾でも6位にランクインしている有栖川ヒルズ(東京都港区)は、大きく事情が異なる。バブル絶頂期の91年に竣工したこの物件の当時の平均販売価格は19億3600万円! 日本マンション史上に名をはせるお化け物件だ。
元々の販売価格が高額だったこともあって、現在の中古流通時の坪単価は8割以上も大幅に下落している。これだけ価格が下がってもヴィンテージマンションといえるものだろうか。
「広尾駅から徒歩5分、有栖川公園に近い抜群の立地、そして全14戸という希少性、下落率にかかわらず十分に魅力ある物件です」(地元不動産業者)
価格の推移だけで推し量れないのが、ヴィンテージマンションなのである。
40年近い物件が8倍以上の売値
ランキングの中でもっとも新しい物件が、2位に入った目黒区の恵比寿ガーデンテラス壱番館。有栖川ヒルズの竣工からわずか3年後の94年に建てられたこの物件は、坪単価下落率1%と、築10年で資産価値がほとんど変わっていない。
プラタナスの街路樹に囲まれた恵比寿ガーデンプレイスの敷地内に壱番館と弐番館が立ち、ウェスティンホテル東京や恵比寿三越に近接。都会的な優雅な生活を送るのには理想的な環境だろう。
「5年前から住んでいますが、子どもが成人したら引っ越すと思います。値段が下がらないというのは、売りたい人にはありがたいですね」(40代女性)
坪単価の上昇率が最も高いのがメゾン赤坂(東京都港区)である。新築時から36年が経過しているにもかかわらず、実に8倍以上の価格になっている。
新築時から住み続ける70代の女性はこう話す。
「赤坂の街はずいぶん変わったけど、この一角だけは全然変わらない。夏には木陰が涼しくて蝉の声も聞こえるし、冬には葉が落ちて日当たりもよくなる。赤坂でこんなに緑が多いところはほかにないでしょう」
とはいえ建物の外観はさすがに時代が感じられるが、部屋の内部はどうだろうか。昨年、部屋を購入したという30代の女性はこう話す。
「私の部屋は買ったときには既にリフォームされて、今風のデザインになっていました。見た目で古さを感じていたら購入していなかったでしょうね」
ランキング30位以内に入らなかったが、若者に人気の街、吉祥寺に70年から立っているメゾン井の頭(東京都武蔵野市)も特異な物件だ。
築35年を経たマンションの外観はお世辞にもお洒落とはいえない。オートロックもない。にもかかわらず建築当時の坪単価48万円が、今では6.33倍の304万円に跳ね上がっている。
「吉祥寺駅から徒歩6分で井の頭公園を庭代わりに使える抜群の立地。加えて近隣に80戸以上の同じような規模のマンションが少ないので、入居希望が多い物件です」(地元不動産業者)
購入の狙い目は地域の一番物件
それにしても、なぜ最近になってヴィンテージマンションが注目されるようになってきたのだろうか。
不動産コンサルティングのさくら事務所の社長兼CEO・長嶋修氏は、「消費者の中古住宅に対する認識が変わってきたのが大きな要因」だという。
「今年の春くらいから中古住宅に対する関心が急速に高まってきています。これまで中古の物件は、品質がよくわからないという理由で敬遠されてきました。それは、販売業者が内外装だけの表面上の査定しかしておらず、建物の骨格など本質的な部分を理解していないため、購入者にまで伝わらなかったのです」
2004年の国土交通白書によると、日本の全住宅取引量に占める中古住宅戸数の割合は、11.8%である。アメリカの76.6%、イギリスの89.0%に比べると、はるかに少ない数字であることがわかる。
確かに中古物件は素人には良しあしの判断が難しく、玉石混淆の感がある。それだけに慎重な目利きをすれば、お宝物件も手に入れることができると長嶋氏は言う。
「やはり一番の目安は立地です。まずその住宅をとりまく街の雰囲気、次にそこに住む住民たちの価値観やコミュニティー形成意識、そして文化や歴史が熟成された土地。こういった地域の物件は、十分にヴィンテージになり得るでしょう」
ランキングに入った坪単価300万円以上の物件はすべて都内の一等地に立ち、サラリーマンにはそうそう手の出るものではない。ならば身近な地域で、自分にとってのヴィンテージマンションを見つけるのもひとつの方法だろう。
「高級住宅地の物件だけがヴィンテージマンションではありません。その地域のランドマーク的なマンションは、値下がりする可能性が低く、ヴィンテージといえるでしょう」(中山氏)
駅に近い、大型スーパーが近い、周囲に分譲物件が少ない、といった特徴をもった地域の一番物件ならば、価格が大きく崩れず、資産価値が保たれるという。
「人々が住宅に求めるものが変わってきたのかもしれません。最新の住宅設備よりも、緑が多く、仕事から帰るとほっとできる環境を欲する人たちが、生活スタイルに合った住まいを選択するようになってきているのでしょう」(中山氏)
懐の余裕と同時に心の余裕も必要になってくるヴィンテージマンション。住宅選びの新たな選択肢に入れてみてはどうだろうか。
◆価格上昇はないが掘り出し物はある? 近畿編
ヴィンテージマンションは、近畿地方にも同じように見られるのだろうか。東京カンテイ市場調査室の井出武主任研究員はこう分析する。
「首都圏のように新築時から10年以上たって価格が上昇している例は、残念ながら近畿圏ではほとんど見られません。人気が山手線圏内に集中する東京と違い、近畿では京都、大阪、神戸と中心地が三つに分散していることや、関東のような超高級マンションがあまり造られてこなかったことが原因でしょう」
実際、首都圏同様に坪単価順に作成した上のランキング表でも、新築時より価格が上昇しているものは6位のラポルテ西館(兵庫県芦屋市)だけである。
それでも高い坪単価を保っている物件には、ある傾向が見いだせる。
「一番の条件はやはり立地です」(井出氏)
ランク内の京都の2物件は、いずれも京都市上京区にあるが、
「上京区は京都御所を中心に歴史的な建物が多く、条例で高層建築物が建てられないので景観も素晴らしい。また、芦屋市や摂津本山など神戸市東灘区周辺は大阪や神戸への通勤に便利で景観も良いため、古くから高級な住宅が多い」(同氏)
公立小中学校の評判もポイント
ランクインした芦屋市のラポルテ北館、西館を訪ねると、高級住宅街と言われる芦屋の中でも、JR芦屋駅北側に隣接するショッピングモール内というベストポジションに位置し、人気があるのもうなずける。
「もともと高級住宅地は山沿いが中心なのですが、そこに昔から住んでいた方がご高齢になって、買い物にも便利な駅前に引っ越してこられる例が多いです。駅の周りは低層住宅地で高い建物もないため、景観も良い。地域自体がブランドと言ってもよい芦屋の中でも、ランドマーク的な建物です」(地元の不動産業者)
立地に加え、住環境の良さも人気の要因になる。そんな物件の一つが、大阪市都島区にあるベルパークシティANNEXである。
大阪中心部の梅田駅から地下鉄で約10分と、立地的にも十分好条件であるが、それだけではない。近隣の不動産業者はこう話す。
「このマンションは地域で評判が良い公立の小・中学校の学区に入っているのです。マンションを購入する方は小さいお子さんをお持ちの家庭が多いので、学区が物件選びの重要な要因になっているようです」
また、もう一つのポイントが、「ペットOK」だ。
「ここ数年の新築マンションでは珍しくなくなりましたが、中古でペットOKという物件は、この辺りでほかにはほとんど見当たりません」(前出の不動産業者)
首都圏よりもヴィンテージマンションが見つけにくい近畿圏だけに、掘り出し物の物件を見つけたときの喜びもひとしおではないか。
(週刊朝日・今田俊、小泉耕平)