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急成長「地下げ屋」が明かす「塩漬け物件がおいしい」

〈週刊朝日:2006年9月15日号〉

 不動産取引が活発になるなかで、「地下げ屋」なる聞き慣れない商売が急成長している。だれも見向きもしなかった「塩漬け」物件で稼ぐというのだ。これにいち早く取り組み、いまでは東京と大阪の一等地で事務所を構えるまでに会社を大きくしたAさん(47)が繁盛の秘訣を明かす。

 わたしの会社では「地下げ」と「立ち退き交渉」が事業の2本柱です。とくに「地下げ」は競合する会社が少なく、おいしい商売なので、本当は人に知られるとまずいんです。

 《Aさんはよく日焼けした顔に笑みを浮かべ、大阪弁を交えてテンポよく語り始めた。

 不動産バブルが崩壊した90年代、業界で「地下げ」といえば、こんな行為を指していた。不良債権の担保になっている不動産に居座って、債権者の金融機関などに多額の立ち退き料を要求したり、安く買いたたいたりすることだ。逮捕者も出たほどだが、Aさんの商売は、これとは違う。》

 わたしたちの「地下げ」は最初に、大手不動産販売会社から寄せられる売り地の情報のうち、土地と、その上に立っている住宅や店舗との持ち主が違う「瑕疵物件」だけを抜き出します。地主さん以外の人が所有する建物がのっている土地は底地といって、そこに住んでいる人たちに引っ越してもらって更地にしない限り、マンション建設などには利用できません。ふつうの不動産会社はいっさい手を出さず、「塩漬け」になりやすいんです。

 それでも、地主さんの側に相続が発生したりして、納税のために売りに出すことが多いんです。それをわたしたちが買います。競う相手がいないこともあって、安く手に入れられます。

 そうしたら、次は建物の持ち主(借地人)に相場どおりの値段で転売します。

 値段の決め方には仕組みができているんです。相続税や贈与税の算定基準になる国税庁の路線価図に、借地人の権利割合が書いてあります。東京圏の住宅地なら、だいたい7割。実勢相場が坪100万円とすれば、借地人の権利は坪70万円になります。残りの地主さんの権利分、坪30万円をそのままの値段で売るわけです。実勢相場も物件の近くの不動産屋に聞くなどすれば、わりと簡単にわかります。

 ●7割の人が買うリスクない商売

 安く買って相場価格で売る。この価格差がわたしたちの利益ですが、ほとんどリスクがない商売だと考えています。なにしろ、

 「あなたの建物がある底地を売りますけど、買いますか」

 と書面で案内すれば、ほぼ7割の人が買い取ってくれるんですよ。

 借地人にとっても、借り物の土地を自分のものにすることで、いろいろなメリットが生まれるからです。土地を借りたままだと、法令上、建物の大幅な改築や売却には地主さんの承諾が必要になります。古くなっても建て替えられなかったりするわけです。それに、金融機関から建物だけを担保にお金を借りるのも難しい。借地人の立場は基本的に不利なんです。

 しかし、いざ土地を手に入れれば、売りやすくなるし、お金も借りやすくなる。だから、借地人の姿勢としては底地が欲しい。たとえば、いま埼玉県の標準住宅地は高めに見積もって坪150万円ぐらいでしょうか。そこに20坪の土地を借りて家を建てたとします。地主さんの権利を3割として、坪45万円×20坪、総額900万円で底地を自分のものにできるわけです。ほとんどの人は現金で買っていきますよ。元来は評価額3千万円の土地ですから、銀行で住宅ローンも組みやすい。

 東京都内で借地の上に立った家族向けマンションでは、1戸あたり300万円ぐらいで土地の所有権が持てるんです。地主さん、借地人、そしてわたしたち。すべてにとっておいしい物件なんです。

 それなら地主さんが自分で交渉すればいいと思うかもしれませんが、借地人の数が多くなると面倒で、仕事を持ちながらでは難しいですよね。だから、わたしたちが一括で買うのです。

 こうした枠組みを思いついたのは、大阪で商売していた92年ごろのこと。不動産バブルが崩壊してから、「地上げ」途中で資金が続かなくなったりして放り出された塩漬けの土地がたくさん出てきたからです。

 「地上げ」では、ぜったいに立ち退けない事情があるケースが非常に多かったので、

 「出ていけないなら、あなたが買ってくれ」

 という発想にたどり着いたんです。だれも不動産を買わない時代で、唯一買ってくれたのが、そこに住んでいる人でした。当時はむちゃくちゃ売れました。

 《99年ごろ、埼玉県で2千坪の底地を手がけたのを機に、Aさんは東京にも進出した。大手不動産販売会社のB部長は言う。

 「もともと、こういう底地の売り情報は捨てていました。自社で借地人と交渉しても、半年かけて実入りが5千万円や1億円では採算が合わないですから。一時期は、情報が100件あったら100件ともAさんに任せていました」》

 借地人が買わない底地はどうするか。

 その上に住んでいる人たちに立ち退いてもらって、大手のマンション販売会社などに売るんです。彼らにしてみれば、いまは地価が上昇してビジネスチャンスですが、すぐに利用できるきれいな土地の出物は少なくなっているので、こちらはますます商売繁盛です。

 たとえば、古いビルやアパート。昔は改修で済ませようという発想が強かったのですが、ここ数年は事情が変わりました。耐震構造やアスベストの問題です。新たに建てれば、現行の耐震基準に適合し、アスベストも除去できるわけです。

 そうなると、住人に対する立ち退き交渉が重要になってきます。その土地を買って更地にしたい側にとっては、一刻も早く新しい建物をつくりたいですからね。立ち退き料を支払って引っ越してもらうのですが、引っ越しに最低限かかる経費のうえに「手間賃」をいくら積み上げるかがポイントです。その意味では、地価上昇に比例して、買う側が立ち退き料の予算を多めに認めてくれるようになったことも交渉をやりやすくしてくれました。この5年間で予算枠は5割増しぐらいになったでしょうか。

 立ち退き交渉だけを任される案件もあります。進め方ですが、まず地主さんに住人の情報を聞くんです。家族は4人、家賃が滞りがち、うるさく騒ぐことがある……などなど。そのうえで1度訪問して素性を全部つかみ、学生の一人暮らしとか、安い立ち退き料でも引っ越してくれそうな人から契約していきます。30代のころから、アパートやマンションなら訪問3回、借家は5回で契約するとペースを決めています。

 相場観は、おおよそ家賃の6カ月分ぐらいのイメージでしょうか。

 「お隣もそれで引っ越していただきました」

 と言えば、だいたい合意してくれます。だけど、

 「ぜったい嫌や。もっとふんだくったれ」

 と粘る人もいるんです。最後の1軒になって、目ん玉ひんむくようなカネをとっていった連中もいます。立ち退きには粘り得、ゴネ得が横行しているんですよ。

 ●街宣にも動じぬ店子の口説き方

 「いやいや、Aさんは腕のいい交渉人ですよ」

 と、前出のB部長は褒める。初めて立ち退き交渉を依頼したマンションで、20〜30軒の交渉を実質2週間で完了したからだ。》

 交渉成功の秘訣は、いきなり「出ていけ」と言わないことでしょう。

 十数年間、街宣車に店の前で騒がれても立ち退きを拒んできた貸店舗の店子さんの話があります。大阪府内を走る阪急電鉄線のある駅前の商店街。500〜600坪の更地の一角に、その古着店だけが残っていたんですよ。

 これだけ闘った人が相手ですから、交渉する前は気が重かったんです。でも、店主に会うなり、

 「出ろという話をしにきたんちゃう。どう解決したら、あんたにメリットがあるかという話をしにきたんや。なんぼ粘っても、家賃を何十年払っても、店があんたのものにはなりまへん。それよりも、ひとつ手を打って、いくらかの立ち退き料をもらって、もっといい場所で空き店舗を買ったら、あんたのものでんがな」

 という言葉がとっさに出ました。これが相手の琴線に触れたんですよ。立ち退き料は予算枠内の2450万円。むちゃな大金も使わず、長期間粘った人を1日で口説き落としたんです。報酬を1千万円いただきました。

 もうひとつは、大阪市内の70坪の底地にあった平屋建ての家の話です。地主の不動産会社はマンションにしようと考えていましたが、借地人が立ち退いてくれず、計画は頓挫していました。借地人は70歳過ぎの老夫婦と、40歳前ぐらいの息子という家族です。

 この家には半年ぐらい通っていましたが、ある日、借地人にこう話しました。

 「6千万円の立ち退き予算を持ってんねん。奈良のほうなら40〜50坪の家が4千万円ぐらいで売っているし、残った2千万円で身も立つんちゃいますか。死ぬまでこの場所におりたいのはわかるけど、息子さんのことを考えてみいや。土地が借り物だから、いずれ何らかの決着をつけなあかん。息子さんが火の粉かぶるで。最後の息子孝行だと思ってくれへんか」

 これが糸口となって、最終的には本当に予算枠いっぱい、7千万円で決まりました。

 《Aさんの会社は今年6月期の決算で、売上高が100億円を超えた。この期に手がけた物件の数は80。どちらも前期の2倍と、まさに倍々ゲームで規模を拡大している。いまでは約40人の社員を抱える。》

 底地物件はまだたくさん残っています。関東圏では、江戸時代の大名屋敷の跡地なんかに多い。また、東京都内や大阪市内では1960年前後に、借地権分譲のマンションがかなりあります。もうかなり古く、建て替え時期を迎えていますが、地主さんの承諾がいるので、住人は自分のものにしたがるでしょう。

 威嚇的な立ち退き交渉をする人はまだいますが、ひとたび相手方とトラブルを起こすと、収拾に長い時間がかかってしまいます。平均値をとれば、わたしたちの交渉スタイルのほうが安全で、ほかの人の3分の1から5分の1のスピードで仕上げられる自信がありますよ。(構成 本誌・江畠俊彦)


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