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ルポ 地価上昇率1位の町、北海道・倶知安町を這い歩く

〈週刊朝日:2006年10月6日号〉

 倶知安と書いて「くっちゃん」と読むんだそうだ。この北海道の片田舎の町がにわかに注目されている。先日、国土交通省の発表で「地価上昇率日本一」の町であることが判明したからだ。不動産好きの編集長はさっそく記者に「いますぐ現地に飛んで、見てこい!」と指令を出した……。

 「本当に私は地価上昇率1位の町に行くのだろうか……」

 そもそも、こんな不安はあることはあった。

 東京から新千歳空港で降りて、まず小樽へ。そこから乗り継いだ、倶知安行きの電車は1時間に1本で、しかも「1両編成」だ。

 「えっ、1両……大丈夫、私」

 と不安にかられながら1時間半揺られて、倶知安に着いたのは午後5時ごろ。すでに薄暗かった。

 「ようこそくっちゃん町へ」という看板が迎えてくれたものの、商店街ではほとんどのお店がシャッターを下ろしたまま。人通りもまばらで、飲み屋も見当たらない。

 「北海道に行くのだから北の幸を堪能するぞ」という野望も果たせぬまま、タクシーに乗り込んで町から10キロ離れた「ひらふ地区」に行った。

 そこで、予約してあったペンションで一人寂しく夕食を済ませ、念のため、近くの温泉にも行ってみた。が、客は記者だけだ。

 これはどういうことなのか? なぜ、こんなにここはサミシイのか? だって、ここは正真正銘、住宅地では全国一の地価上昇率33・3%を記録した倶知安町山田、通称ひらふ地区じゃないか。それがなぜ……胸騒ぎを覚えながら、その日はとりあえず、寝た。

 倶知安町は人口1万6千人の小さな町だ。主な産業は農業だが、なんと男爵いもの生産量は日本一を誇る。小さくてもある意味、大きい存在感のある町だ。

 翌日、町の中を歩いてみた。静かである−−

 それもそのはず。ひらふ地区もまた、昼間というのにほとんどのお店が閉まったままで、歩く人のほうがまばら。土木作業員や、時折、修学旅行生を見かけるくらいだ。

 町をドライブした。たまに、馬がいたり、牛が群れていたりするが、人はいない。野菜の無人直売所はある。でも、やっぱり人はいない。

 今回いちばん地価が上昇した「倶知安町山田163−6」を訪ねてみることにした。

 だが、この土地を探すのも一苦労だった。近隣の住民に聞いても「知らないねえ……」の連発。1時間ほど探してやっと見つけたのは、別荘の隣の草むら。でも、この草むらが、紛れもなく地価が日本一上昇している土地だった……なぜ?

 実は人影まばらなこの土地だったが、建設中の建物と「FOR SALE」の看板はいたるところで見受けられた。

 そして、地価上昇を支えているのが、ここ2、3年で急増して倶知安を訪れているオージー(オーストラリア人)たちの不動産購入。彼らがバンバン別荘を買ったり、コンドミニアムを買ったりしているため、地価が上昇しているのだ。

 住民の一人はこう言う。

 「世界中からたくさんの人が来てくれるのはにぎやかでいいけれど、知らない間にどんどん家が増えて、見知らぬ人たちが増えていく。そのうち、ブームが去ったら、ゴーストタウンにならなきゃいいけどと、少し心配です」

 でも、なぜ倶知安にオージーが急に集まっているのか。彼らの目当てはスキーだという。

 倶知安は豪雪地帯、ニセコスキー場で知られている。そもそも、その倶知安に1912年、スキーを伝えたのがオーストリアのレルヒ中佐という人物だった。

 時を経て、スキー好きのオーストリア人ならぬ、オーストラリア人のオージーたちがこの地にやってきたわけだが、理由はいろいろある。

 そもそも、北半球と南半球では季節が逆転しているので、かの地でスキーができないシーズンに日本に来ればスキーができる。町役場の広報担当者はこう語る。

 「さらに、時差は1時間しかありませんし、ニセコのパウダースノーは世界的に見ても素晴らしい。スキー好きにとってはたまらないということのようです。でも、最大のきっかけは2001年に9・11のテロが起きたことです。それまで、スキー好きのオーストラリアの人たちはカナダに行って滑っていたそうですが、テロ以降、北米方面は敬遠されるようになった。そこで、スキー好きのオーストラリア人たちから倶知安の名前が口コミやインターネットを通じてどんどん広まったんです」

 実際に倶知安を訪れるオージーは03年に約3千人、04年に約4千人、昨年は約8千人にのぼったというからすごい。

 しかも、必ず長期のバカンスを楽しむオージーは、倶知安にも10日から2週間という長期型滞在。昨年の宿泊人数は延べ8万人にもなる。80年代のバブル以来、スノーボード人気やスキー人口の減少に悩んでいた倶知安町からすれば、「天のめぐみ」なのだ。

 ●空前の好景気に投資家の眼差し

 だが、スキー好きのオージーたちが滞在するのは、上質のパウダースノーで滑れる冬の間だけ。というわけで、いま、スキー好きのオージーたちは地球の反対側、冬の本国でスキーを堪能している最中。ここには誰もいないというわけなのだった。

 それはともかく、話を地価に戻すと、上昇している背景には、オージーたちの雪をも溶かす(?)こんな熱気もあるという。

 もっか、オーストラリアは鉄鉱石や石炭などの資源バブルで空前の好景気。そこで、スキー観光だけでなく、倶知安が不動産投資のチャンスとしても注目されているのだというのである。

 コンドミニアム建設・販売大手の豪州系企業「北海道トラックス」の代表取締役、サイモン・ロビンソンさんは2002年、初めてニセコを訪れ、「パウダースノー」に感激し、翌年、会社を設立した経歴の持ち主でもある。

 そのロビンソンさんの説明でも倶知安人気は急上昇中。04年には8戸、昨年は18戸、今年は47戸、そして今年の冬に向けて40戸を収容できるコンドミニアムを建設しているが、企画段階で全戸売却済みという人気ぶりだという。

 「実際にはコンドミニアムが立ち並ぶエリアは坪あたり30万円(3年前は4万円)、ペンションが多いエリアで12万円(3年前は3万円)で取引されてる。コンドミニアムは一戸あたり3800万円から7千万円で売れています。これからもその勢いは続くでしょう」

 思わず、記者が、

 「冬季だけの別荘にその値段は高いですね」

 と本音を漏らすと、

 「私たちは東京や日本ではなく、世界のリゾート地としてのポテンシャルを見てビジネスをしている。投資物件としては、けっして高くはありません」

 と言うのである。

 町の役場では、こうしたオージーたちの動向を、

 「いや、べつに誘致もしてませんし、気がついたらいっぱい来てたって感じですが、もちろん歓迎します」

 と語っていたが、もうすでにお気づきのように、地価が上昇しているのは倶知安の中でも、オージーたちのコンドミニアムやペンションが集中しているひらふ地区の一部−−倶知安町の3%ほどの面積に限られている。

 冒頭に書いたように町の中心部、駅周辺はシャッターは下りたまま。ひらふ地区とは対照的に、倶知安市街地は商業地で北海道内で4番目に地価下落率が高いという結果になった。今年初めにはスーパーの「ダイエー」も閉店したという。

 ●下落率全国一の町も似ていて…

 倶知安観光協会の脇山忠会長も、

 「コンドミニアムの建設を請け負っているのは札幌などの建設会社で、地元への経済効果はまだ見えていません。オーストラリアの人に、日本文化に触れてもらおうと踊りや茶道、伝統音楽などを披露しようという試みも始めましたが、それにしても夏の観光はどうしたもんかなあ」

 と漏らしていた。市街地の商店街では、

 「ひらふ地区と市街地はどうしても分かれてる。オーストラリアの人にも山から下りてきてもらって、買い物してもらってお金を落としてもらえれば、商業地域で道内4位の下落率っていうのも、もうちょっとよくなるんじゃないかなあ」

 という、ぼやきともつかない声も出ていた。

 はてさて、地価上昇率1位の話はこれぐらいにして、今回の取材では、上昇率1位の倶知安・ひらふ地区と「真逆」の、全国一となる17・6%の地価下落率を記録した、札幌市のベッドタウンの岩見沢市幌向南にも行った。倶知安から電車で3時間半ほどの距離だ。

 幌向は稲作中心の町だが、地価が急降下しているのは閑静な住宅街。当の下落地点も、駅から徒歩5分ほどの交通の便のよい場所だったが、正直言って、町並みも人影の数もひらふ地区と大差ない。住民の一人が、

 「なんで、倶知安が1位で、札幌にも近くて便利な幌向がビリなんだろうねえ。同じようなもんなのに」

 と首を傾げるのもわかる気がした。

 うーん、不動産の話はやっぱり複雑で難しい。

 (本誌・中釜由起子)


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