AERA 2008年7月28日号
京都市内に1500万円の投資用マンションを購入して3年目のA子さん。数日前、預金通帳を見て、驚いた。
「おかしい。家賃が振り込まれていない」
これが騒動の発端だった。
大阪市の資産運用型マンション分譲会社「日本インベスト」が7月15日、自己破産申請の準備に入った。オーナーと管理委託契約を結び、5%の管理費を差し引いて家賃を振り込むシステム。ところが5月以降、同社はこの家賃に手をつけ、会社の運転資金に流用した。
オーナーは全国に約450人。5〜6月はこのうち約300人の約5000万円を流用したという。問題発覚後、同社はすべての管理委託契約を一方的に破棄した。7月分の家賃は全額が滞り、被害額は9000万円を超すという。
社長は朝日新聞の取材に、
「手形の決済が迫っており、手をつけてはいけないお金に手をつけた」
と明かしている。
経営悪化は深刻だった。京都・二条で3月に完成した49戸のマンションは、10戸しか売れていない。元従業員はいう。
「昨年まで、コールセンター要員を含めて100人近くが働いていたのに、18人に減った」
販売不振で社員が離れ、さらに営業力が低下する悪循環だった。不振の背景に、建築基準法改正の混乱による資金計画の狂いや、米国のサブプライム問題に影響された景気後退などがあるという。
●夏以降は大型倒産も
不動産業界の苦境は深刻だ。昨秋以降、日本の景気悪化の「牽引役」となっている。帝国データバンクが発表した2008年上半期の倒産集計によると、国内の負債額1000万円以上の倒産件数は、半年間で6022件。前年同期比で11.6%も増えた。
「業種別では、資金調達環境の悪化や販売不振が顕著な不動産業(201件、前年同期比7.5%増)と、構造不況が続く建設業(1633件、同16.2%増)が目立つ」
と、同社はレポートで特記している。
調査を担当する情報取材課の篠塚悟課長補佐はいう。
「年明け以降、不動産業界の信用不安情報が急増していた。しかし、倒産に至ったのは氷山の一角で、本当に深刻なのはむしろこれから。夏以降はより大型の倒産が発生する恐れがある」
篠塚さんが指摘するのは、国土交通省の失政ともいうべき建築基準法改正の混乱や、米国のサブプライム問題の影響だ。銀行は融資の姿勢を厳格化しており、9月の中間決算前後までは予断は許されないという。
実際、これまでに倒産した不動産会社の物件を見ていくと、交通の不便な郊外型が多いことに気づく。資金力が乏しいため、都心での開発ができず、仕方なく周辺地域でマンションを建設したものの、売れ残って資金繰りが悪化している状況だ。
東京から30キロ離れた、つくばエクスプレス「流山おおたかの森」駅。近畿圏のマンション分譲会社「セントラルサービス」(大阪府吹田市)が数年前から首都圏に進出し、駅近くに全25戸の小規模物件を開発した。しかし販売が伸び悩み、6月に民事再生法の適用を申請した。
●消費者は様子見状態
同社は途中で販売価格を見直し、4740万円のタイプを3970万円に、3790万円のタイプを3340万円に値下げした。それほど市況悪化は深刻。駅周辺は区画整理事業が進み、同様のマンション開発が相次いでいるが、他社のセールス担当者もこうぼやく。
「都心の地価も下がりだしたから、消費者は『様子見』に入った。昨年から販売は一気に苦しくなった」
こうした消費者心理の冷え込みは、東急住生活研究所(東京都渋谷区)が6月に発表したアンケート結果にも表れている。マンションなどの購入計画をもっていた首都圏の1000人に、購入意欲を聞いたところ、この1年間で1割以上が、
「しばらく様子を見る」
に転じた。その理由について、64%が、
「買い時ではない」
と答えている。調査担当者はいう。
「マンションの売れ行きは低下し、ブーム終焉も指摘される。問題なのは、需給のズレだ」
不動産データ会社の東京カンテイ(東京都品川区)がまとめた中古マンションの価格動向も、首都圏では昨年末をピークに、値下がり傾向が続いている。こうした状況が、購入マインドを冷え込ませ、業者は「がまんくらべ」の状態だ。
福岡市のマンション販売会社「インベスト」も6月末、会社更生法の適用を申請した。負債は97億円。
06年12月期は、過去最高の売上高53億9700万円をあげた。だが、その後は販売不振に。同社の取材を続けている地元の企業情報会社、データ・マックス(福岡市)の児玉直社長によると、
「銀行の貸しはがしによる影響も大きい」
という。借入金に依存して、急激な事業拡大を展開してきたが、資金計画に狂いが生じた。さらに、解任された前社長のワンマン体質も、事態を悪化させたという。
インベストが展開してきた「ルネッサンス21」シリーズの最新物件「福岡東ザ・パーク」(福岡県粕屋町)の場合、2月末に完成したが、半年近くたっても全126戸のうち50戸が売れ残っている。
●業界襲う真柄ショック
どんな業者が危ないのか。マンション購入を検討している消費者の目線で見るならば、
「郊外型マンションしか開発できないような、資金力の乏しい業者は危ない」
という法則が浮かび上がる。
購入契約を結んだ後で、業者が倒産して工事が中断するなどした場合、
「支払った手付け金が戻ってくるのか?」
という疑問もよく聞かれる。国民生活センターによると、手付け金には法律に基づく保全措置がとられており、業者が破綻した場合には銀行や信託会社などの「保証会社」から全額返金される仕組みだという。ただ、工事が中断・中止という事態になれば、「夢のマイホーム」計画は大きく狂ってしまう。
今までの倒産は、資力の弱い中小企業が中心だった。だが今後は、大手業者であっても安泰とはいえない厳しさも出てきたそうだ。
財団法人土地総合研究所が全国の不動産業者167社を対象に調査した業況指数も、昨夏から悪化が続いている。4月時点で不動産流通業の「3カ月後の経営の見通し」を聞いたところ、「悪くなる」とみる回答が大きく増えた。「モデルルーム来場者数」「成約件数」などの数字も、下落傾向にあるとの見方が強い。
7月に入って、東証1部上場の「真柄建設」(金沢市)が民事再生手続きを申請した。
「不動産から建設へ。中小から大企業へ。底なし不況が始まった」
関係者の間にショックが走っている。