2010年9月16日
●手厚い挑戦者、手堅い名人
1日目の午後は、下辺黒への白の攻めが焦点となった。左下白40のノゾキに井山名人が黒41と出た時、高尾挑戦者は左下に狙いを残しつつ左辺白42、44の柔軟な発想を披露する。「手厚い棋風の挑戦者の持ち味が出ている」と検討陣。右辺白60や右下白62の好点にも回った。
一方の名人は手堅い。左上黒45と弱点を補強し、左下では白の攻めを慎重にかわしながら黒63まで頭を出した。これで白28からの戦いは一段落。攻防のさなか、足早に右下黒39へ回る機敏さも見せた。
解説の結城聡九段は「次は上辺で変化が起こるかもしれません。封じ手が今後の方向性を決める大きな鍵になりそうです」と話す。
●挑戦者、64手目を封じる
午後5時33分、高尾挑戦者が64手目を封じ、1日目が終わった。ここまで名人が3時間42分、挑戦者が3時間51分を使った。17日午前9時に再開する。
●目新しい序盤戦
序盤早々から目新しい進行となった。高尾挑戦者が打った上辺白10の渋いツメには、検討陣からは「珍しい手だ」と声があがった。さらに、白が24にハサんだ後の黒27からは左下での興味深い折衝になった。挑戦者が白28、30と背後から黒に圧力をかければ、井山名人は黒29とノビて反撃をうかがう。穏やかな進行に見えて、実は水面下で激しい駆け引きが続いているという。解説の結城聡九段は「いつ激しい戦いが起こっても、おかしくありません」と話した。
●地元にラブコール合戦
盤上で闘志をほとばしらせる両者だが、15日の前夜祭の決意表明でも、開催地・愛媛県への熱い思いをぶつけ合い、集まった約180人のファンを酔わせた。
まずは「(対局地の)松山市に来たのは、たしか4回目」と切り出した高尾挑戦者。「初めて来たのは15年くらい前、井山名人と同じくらいの年でしたが、温泉がよくて食事がおいしいのに、すごく感銘を受けました。自分が年を取ったら移住して、のんびり過ごしたい。この地で対局ができて光栄です」。こう話して拍手を受けると、最後は「気持ちよく勝って、30年後か40年後には、ここに移住したい」「負けた場合は、たぶん移住することはないと思います」。オチがついたところで、会場は大爆笑。
盛り上がった直後だけに、話しづらいかとみられた井山名人だったが、当意即妙に受けて立った。松山市で昨年5月に開かれた囲碁フェスティバルに来た際、関係者に「フェスティバルに来た人は必ずタイトルを取る」と言われたエピソードを披露。「それが現実になりました。名人になれたのは、この愛媛のおかげかなと思います」「(第2局で)勝って、愛媛をさらに好きになりたい」と、心にくい返し技をみせた。
対局地への愛情は五分五分といったところか。さて、本局での勝敗やいかに。
●対局再開
午後1時、対局が再開した。名人がうつむいて額に手を当てたり、腕組みをしたりしながら、引き続き31手目を考えている。
●休憩入り
正午になり、名人が31手目を考慮中に昼の休憩に入った。ここまで名人が1時間24分、挑戦者が1時間36分を使った。
上着をはおったままの名人に対し、挑戦者は早い時間から上着を脱いで扇子を手にし、「しょうがないなあ」「わかんない」「打つ手ないなあ」などと時折ぼやいている。盤の上でも、白番の挑戦者が序盤から積極的な動きをみせ、名人が穏やかに応じている。静と動、好対照のふたりだ。
●名人の先番で第2局はじまる
井山裕太名人(21)が挑戦者の高尾紳路九段(33)に先勝して迎えた第35期囲碁名人戦七番勝負(朝日新聞社主催)の第2局が16日午前9時、松山市の旅館「大和屋本店」で始まった。名人戦七番勝負の歴史で初となる四国対決は、どちらが制するのか。
午前8時53分、ともに紺のスーツ姿の挑戦者と名人が、相次いで対局室に入った。定刻の午前9時、立会人の坂口隆三九段の合図で両者が一礼を交わすと、先番の名人がひと呼吸おいて右上の小目に打ち、対局が始まった。
対局は2日制で、持ち時間は各8時間。17日夜までに終局する。