< 第38期名人戦挑戦者決定リーグ戦第22局 観戦記 >
溝上知親 八段
-
張栩 九段
「一に空き隅、二にシマリ(あるいはカカリ)」という言葉がある。序盤の打ち方の基本で、プロもほとんどはこれに従っている。四つの隅を打ち合い、5手目に黒が向かうのはシマリかカカリ、あるいは辺への構えか。
そんな常識に慣れきっているからこそ、逸脱した新鮮な局面に出くわすと、うれしくなる。本局、5月2日の張栩―溝上知親戦がそうだった。序盤早々、記者は未知の世界に引きずり込まれた。
溝上はいきなり黒3のカカリ。ただ、この手だけは知っている。白Aの受けなら、例えば黒5、白24、黒16でミニ中国流に構えることができる。これはまだ常識の範囲内だ。
下辺白4のハサミに黒5の小目の向きがなんとも挑発的。白6とカカってくれといわんばかりだ。左上隅が空いているというのに、もう戦いを起こそうとしている。見ていて、頭がくらっとした。
溝上が誘ったような序盤戦。工夫には工夫でという心境なのか、やわらかく白8とボウシした張は10、12と軽快に動いた。白14に黒16なら白Bの予定だ。
黒17のハネ出しに白は18と逆を切り、厚みを築く。黒23まで、互いの注文をはずしながら見事に分かれるものである。解説の加藤充志九段は「高手の芸としか言いようがありません」と称賛した。
24手目にしてようやく最後の隅に石が置かれた。
(伊藤衆生)
消費 黒:1時間2分 白:27分 (持時間各5時間)