< 第38期名人戦挑戦者決定リーグ戦第28局 観戦記 >
羽根直樹 九段
-
村川大介 七段
6月20日、日本棋院中部総本部の「祥雲の間」。先に現れた村川は扇子を取り出してから上座に着いた。広げると「克己」の文字がある。研究会仲間でもある井山裕太棋聖揮毫(きごう)のものだ。
続いて羽根が入室し下座へ。リーグは白番が上座と決められている。羽根は開始のチャイムが鳴り終わるのを待って初手を打った。
石の接触がほとんどない、ゆったりとした立ち上がりになった。黒9のカカリから11とスベり、13と二間にヒラく。この穏やかな定石が、右下、左下と三隅にできた。落ち着いたものだ。
「羽根さんは、まず力をためて、あとから動くタイプ。ゆっくりした布石は羽根さんの好みでしょう」と解説の中野寛也九段。
黒はコミの負担があるので積極的に戦う傾向が顕著。しかし羽根は自らの道を行く。
以前、羽根がこんなことを話したことがある。「コミが5目半から6目半になった頃、黒番ではより厳しく打たなければと思って色々と試してみました。でも、かえって1目分以上損をしてしまう。自分に合わないと気づきました」。黒番だからといって、羽根の流儀は変わらない。
白が26と圧迫し、やっと石が五線に来た。黒27のトビは上辺と右辺、両方への打ち込みを狙っている。
ここで村川は機略に富んだ手を披露する。
(内藤由起子)
消費 黒:38分 白:25分 (持時間各5時間)
第38期囲碁名人戦七番勝負で2年前の雪辱を果たし、名人位を奪還した井山裕太名人の記念扇子。「碁を楽しむ」という意味で「碁楽」と揮毫(きごう)されています。