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 開始1時間前、無人の対局室に入り、碁盤を見ながら、本局の立会人をつとめる大竹英雄名誉碁聖が以前語ってくれたことばを思い出した。「碁盤は石の置かれてない状態が最も美しい。打ち進むにつれ、碁盤を汚すような気がする」

 師匠の木谷實九段の持論というが、大竹美学は分かりにくい。記者は考える。何もない碁盤はいわばまっ白なカンバスだ。画家が手を加えるにつれ、美へと仕上がっていく。碁も同じで、共同作業によって美しい盤上をめざす。大竹自身、かつての名人戦を舞台に数々の美を見せてくれたではないか。

 4日、七番勝負はことしも東京都文京区のホテル椿山荘東京で始まった。午前9時ちょうど、立会人が「時間になりましたので握りをお願いします」と声をかける。上座の井山裕太名人が白石を無造作につかみ、河野臨挑戦者は黒石を一つ置く。白石は19個。奇数先の意思表示が当たり、挑戦者の黒と決まった。

 さてどんな美が描かれるのか。激しい戦いの中の美か、それとも調和のとれた美か。序盤は後者だった。

 黒5は挑戦者好みの一間ジマリ。左下白6で応ずるのも最近の傾向らしい。

 黒7の大ゲイマガカリに白Aとコスみ、黒Bとヒラけば、400年前からある簡潔で美しい定石が完成する。名人は態度を決めずに白8へ。

(春秋子)

 消費 黒:12分 白:13分 (持時間各8時間)

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