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 昨年12月11日、日本棋院東京本院。午前10時、蘇が音もなくそっと打ち下ろしたのが黒1だった。右上隅からかなり中央へ寄った位置にある。この第一着を初めて見る読者も少なくないだろう。蘇はさらに黒3と続けた。

 同じ名人戦リーグに在籍する張栩九段がネット碁などで打ち出した新構想。現代は序盤戦そのものがパターン化し、ときには何十手も同じ手順で進む碁ができる。前例を繰り返すことに飽き足らず、張はもっと自由な、未知の可能性を追い求める。これに賛同した蘇は、昨夏から公式戦で何度も試みている。

 黒1、3に黒A、Bを加えれば、中央に斜めに傾く正方形が浮かびあがる。「ブラックホール」と張が名付けたその4連打で、蘇は4戦全勝という。

 プロ入り21年目の蘇が初めて臨む名人戦リーグ。お気に入りの構想で初舞台を踏んだ。

 河野の白2は大高目(おおたかもく)。石が近すぎるため、黒はBに打ちづらくなった。リーグはあらかじめ手番が決まっている。河野は黒1を予想し、前日に白2に打つことを決めていたという。

 黒は5とカカる。白6と2の手順を逆にすれば、16までは昔からある定石の一つだ。ブラックホールが完成しなかったのだから河野の言い分が通った格好だが、「相手が対策を立ててくるのは、ある意味、光栄です」と蘇。

(伊藤衆生)

 消費 黒:7分 白:9分 (持時間各5時間)

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