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 対局開始のブザーが鳴り、初手を打つまでの1分間。金沢は頭を垂れ、手元を見つめてなかなか石を持たなかった。何か異様な雰囲気を記者は感じた。

 そしてなんと3手目でいきなりのツケを放った。それも、石を盤に押しつけるような、しっかりとした手つきで。河野は目を見開き、ぐっと顔を盤面に近づける。こんな奇手を記者は初めて見た。

 2月5日、日本棋院「寂光の間」での対局は驚きから始まった。

 金沢は独創的な発想をたびたび見せる棋士だ。師匠の藤沢秀行名誉棋聖が「人まねをするな。工夫しろ」と口を酸っぱくして言っていたのを、心に留めているのだろう。

 「実はすぐ隅の相手の石にツケる手は、金沢さんはよく打っているのです。若手の間では有名でした」と解説の張豊猷八段。打ち慣れているとはいえ、ここは名人戦リーグの大舞台。初参加の金沢にとって勇気のいる決断だったことだろう。

 2年半ほど前の竜星戦に金沢の実戦例があった。黒3までは同手順。相手はここで白6とハネた。黒A、白7に続いて黒4、白B、黒11、白5、黒Cという進行だった。

 白が4とノビた本局はナダレ定石のような姿になった。

 張「またナダレがはやってきているので、河野さんは研究しているはず。ナダレにしたかったのでしょう」

(内藤由起子)

 消費 黒:6分 白:6分 (持時間各5時間)

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