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 「今が一番、碁が楽しい」。そんな言葉が井山裕太名人から聞かれたのは、シリーズが開幕してすぐのことだった。心身の充実は勝ちに結びついた。

 報道のとおり、名人が4連勝で高尾紳路挑戦者を下して防衛。3連覇、通算5期目となる名人位を獲得した。

 開幕前、石田秀芳二十四世本因坊が「終盤にもつれるだろう」と話したように、今シリーズは混戦を予想する棋士が多かった。

 一昨年、高尾が挑戦し井山が防衛した本因坊戦七番勝負も、高尾が井山からタイトルを奪取した昨年の天元戦五番勝負もフルセットに及ぶ戦いになったからだ。ところが始まってみると名人だけが勝ち星を重ね、ストレートで決着した。

 大激戦となった名人防衛の一局を振り返っていこう。

 黒1、3と、同じ向きの小目が並ぶ。珍しい布陣だが、名人はときどき試みている。

 黒7のコスミを見た挑戦者は、大きく息を吐き、厳しい表情になった。「黒11から白14はひとつの形。黒は右辺の大場に先着する方針です」と解説の羽根直樹九段。黒15まで、上辺から右辺に勢力圏を築き、まずは名人の構想通りに進んだ。

 対局場は三重県志摩市の「賢島宝生苑」。10月5日朝、賢島は晴天だった。窓の外には穏やかな水面をたたえる英虞湾(あごわん)が広がっている。

(内藤由起子)

 消費 黒:43分 白:24分 (持時間各8時間)

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