3月10日、日本棋院東京本院での対局。2連勝と2勝1敗の好カードながら、夕刻まで話題の中心になることはなかった。
この日は人工知能の「アルファ碁」と韓国のイ・セドル九段による五番勝負の第2局があった。前日の第1局をアルファ碁が制して「まだまだ人類には及ばない」との楽観論はきれいに消え去った。記者室には入れかわり立ちかわり棋士や関係者がやってきた。大勢がアルファ碁の中継に見入るさまは、七番勝負の最終局のようだった。
しかしやがて、黄と村川が描いた盤上にも多くの視線が注がれることになる。見たこともない石の流れに、ある棋士は「意欲的」と受け止め、ある棋士は「信じられない」と否定した。
流行の布石で始まった。黒11の大斜ガケに続き白Aなら黒はB、白13、黒C、白D、黒Eが主流。白Aに黒Fと割り込む難解型に誘導しないのが不思議だ。「地を強く意識している表れ」と解説の瀬戸大樹八段はいう。
白12から20もからい。ガッチリ稼いで黒に手を渡す。左辺に残された白10の動向が焦点だ。黒21は当然。ここまでの実戦例は豊富で、村川も翌週、白の立場で打っている。
急所を突く見慣れた形の白22は、この布石では珍しい。なにもせず白G、黒24、白Hが普通だ。そして黄は白26のノゾキへ。
(松浦孝仁)
消費 黒:27分 白:20分 (持時間各5時間)
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