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 棋士は手抜きから考える。アマチュアとプロの違いをあげる際によく使われる表現だ。

 初めて当欄を読まれた方は驚くかもしれない。「棋士とはいい加減な人間なのか」と。そうではない。相手の着手に反応せず他へ回ることが「手抜き」。囲碁用語だ。

 アマチュアは手抜きに怖さを感じる。特に生きるか死ぬかの場面ではなかなか決行できない。連打されて眼形を失えば即ゲームセット。しかし、プロは生か死かの答えの出せるところで大けがはしない。読みの精度、深さは、アマのはるか上を行っているのだから。ところが本局は「手抜き」が勝敗を分ける。それも死活の絡んだ場面で。かなりのレアケースといえる。

 両者4勝1敗。勝ったほうが村川大介と挑戦権レースのトップを並走することになる。ありていに言えば大一番だ。記者は小刻みに時間を使う神経質な立ち上がりを予想したが、高尾も張もいつも通りの早打ちだった。開始10分でなんと黒29まで進行。「どこの早碁棋戦?」と聞いてきた棋士もいたほどだ。

 白30は16分の考慮。26、28と白石が縦に並んだため、30と三間にヒラくのが目安。「二立三析(にりつさんせき)」と呼ばれる好形だ。しかし現代は、あえてこの理想形を敵にあたえ、あとから仕掛ける考え方が幅を利かせてきた。黒31が狙いの一着だ。

(松浦孝仁)

 消費 黒:5分 白:22分 (持時間各5時間)

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