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 決戦前日の11月1日。井山裕太名人は地元大阪から新幹線で静岡へ。ワイドビューふじかわ号に乗り換えて甲府を目指した。高尾紳路挑戦者は新宿駅からスーパーあずさ号を利用。夕刻までに、対局場の「常磐ホテル」には両対局者と関係者が予定通り到着した。

 記者は車中で挑戦者の隣だった。気持ちよさそうにうとうとしていた挑戦者が、突然声を上げた。「富士山が見えますよ」。無邪気な笑顔に見えたのが印象的だった。勝てば名人という極限の勝負を控える人間が、車窓からの景色を楽しめるのが意外でもあった。

 名人は硬い表情が目立った。夕食前に行われた対局室の検分では、目を合わせるのも避けたくなる雰囲気があった。名人の対局は何度も間近で見てきたが、ここまでピリピリしている彼は記憶にない。挑戦者は浴衣に真っ赤な靴下という極めて個性的ないでたちで現れ、「うっかりはいてきてしまった」と言い訳。笑いを誘っていたのとは対照的だ。

 翌2日、午前9時。大勝負の始まりを立会人の王銘琬九段が宣言する。握りが行われ、名人の先番と決まる。

 右下、ツケ引き定石の途中に白12とノゾいて黒13と換わるのは最近のはやり。黒を固めるが中央方面にはプラスとの考えだ。

 それにしても両者、着手が速い。白14のツケはノータイムだった。

(松浦孝仁)

 消費 黒:8分 白:8分 (持時間各8時間)

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