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 打ち掛けの晩に11時間も眠った棋士なんて聞いたことがない。多くはどうしたら眠れるか苦しむものだ。仕方なく酒に頼る棋士も少なくない。

 台湾入りした当日の話。台湾棋院、海峰棋院のみなさんとの親睦をかねた夕食会に招待された。移動の車中、名人は後部座席に陣取り、周囲と和やかに談笑。挑戦者は前方にポツンと一人だった。ときおり聞こえてくる名人の笑い声は、彼には重圧になっているのではないか。そんな想像をしていた。しかし、そこでもしっかり眠っていた。頭が揺れはじめ、窓ガラスにコツンとぶつかって目が覚めて、ふたたびコックリ、コックリ。これを幾度も繰り返した。見かけの線は細いが神経は丸太のように太い。私はそう確信した。

 黒35のノゾキに注目しよう。左辺の黒の生死を見極めようとしていた検討室は少しだけどよめき、すぐに挑戦者の意図を察知した。

 平田「種石の△二子にプレッシャーをかけ、右下隅の手入れを省こうとしています。もちろん、左辺の黒はしのげると踏んでいる。挑戦者らしい、ものすごい頑張りです。名人は想定外だったのではないでしょうか」

 名人が14分考えたところで昼食休憩に。再開後、すぐに白36、黒37を交換し、白38と左辺の黒への総攻撃を宣言した。白36をAでは、黒のしのぎが楽になる。

(松浦孝仁)

 消費 黒:4時間52分 白:5時間37分 (持時間各8時間)

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