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■挑戦者が封じ、1日目終わる
対局生中継・棋譜中継はこちらから午後5時45分、羽根挑戦者が57手目を封じて1日目を終えた。挑戦者は別室で棋譜に封じ手を書き入れ、封筒に入れて立会人の武宮正樹九段に手渡した。
消費時間は黒番の挑戦者が4時間47分、白番の山下名人が2時間58分と、2時間近い差がついた。28日午前9時に再開する。
1時間超の長考の末に手堅く守った黒45に対し、名人もじっくりと32分かけて右辺白46。実利に走っていた黒の出方をうかがった。ここで挑戦者は守り一辺倒を避け、左辺白の厚みを意識して黒47から55と中央に頭を出した。名人が黒地の見込めた右辺を白56と割ったところで、封じ手となった。
■挑戦者、長考64分
羽根挑戦者が深い悩みの世界に突入。選択肢の非常に多い局面で一手に64分を費やした。どんな構想で打ち進めるかを思いを巡らさなければならない局面。持ち時間8時間の2日制だからこそ許される長考だが、もちろん、それが楽しい時間かどうかは知るよしもない。
午後1時の再開後に山下名人が打った下辺白26のツケは、左辺に取り残されている黒二子を大きく取り込む狙いを持っている。名人は黒31までを交換して、左辺白32へまわった。
中央に浮かせたような黒41は、まともに左辺を逃げるのは重いと判断した柔軟な手。白が小さく取りに来るならばむしろ歓迎という態度だ。白42と分断させ、挑戦者は一転、右辺黒43に展開。右上一帯の黒は、隅を中心に両翼をヒラいた好形になった。
名人は上辺白44とボウシして、黒模様の制限や左辺の勢力の拡大をはかった。ここで長考のすえに打たれたのが黒45。手堅い守りだが、両翼の薄みをカバーした働きのある一手でもある。
■おやつも盤石も、名産品
午後3時になり、両対局者におやつが出された。名人は日向夏みかんジュース、挑戦者はフルーツ盛り合わせとコーヒーだ。日向夏みかんは、もちろん宮崎の特産品。外に出られない対局者に、わずかながらでも現地の香りを感じさせてくれただろうか。
宮崎と言えば、両対局者が使う碁盤と碁石もまた、地元の名産である。名人が持つ白石は日向・お倉ケ浜産のハマグリ碁石。細やかなしま目、柔らかな乳白色の輝きは最高級の証しだ。碁盤も、樹齢700年近い日向産の榧(かや)の木から作られた逸品。なんでも原木は1立方メートルあたり4千万円で取引されたというから、超極上品である。
碁石は50年ほど前、碁盤は20年ほど前に作られたが、対局で使われるのは今回が初めてという。大切に保管され、26日の対局室検分で披露されると、両対局者は「すばらしい」「打ちやすい」と感激の声を上げていた。今回のために特別に用意された盤石で、両雄ははたして、どんな極上の対局を披露してくれるだろうか。
■対局再開
午後1時になり、対局が再開した。山下名人はほどなく白26を打った。下辺黒9の一路右へのツケ。名人、主導権を取りにいったか?
午前中は、挑戦者の趣向をこらした一手を発端に左辺一帯で駆け引きが続いた。黒が右上と左下、白が左上と右下へ先着する「タスキ型」で始まった序盤戦。白12までは常識的な進行だったが、黒13が打たれると、検討陣は「おおっ」。左下白の隙をうかがう一手で、実戦例はあるが非常に珍しいそうだ。
解説の林漢傑七段は「今シリーズは挑戦者の積極性が印象的ですが、早くもその傾向が表れました」。挑戦者は左上で地を稼ぎ、さらに足早に上辺黒25へ回った。
対局再開時の消費時間は、挑戦者が1時間27分、名人が1時間33分。
■昼食休憩に
山下名人が26手目を考慮中に正午を迎え、昼食休憩に入った。羽根挑戦者は温かい天ぷらそばを注文。名人はいつものように対局中の昼食を抜き、午後に臨む。
対局は午後1時に再開する。
■19年ぶりの宮崎対局
宮崎県での囲碁名人戦開催は、じつに19年ぶりとなる。前回は1993年9月、小林光一名人(現・名誉名人)に大竹英雄挑戦者(現・名誉碁聖)が挑んだ第18期の第3局。このときは宮崎市の宮崎観光ホテルで打たれ、大竹九段が黒番6目半勝ちを収めている。
今回の会場はフェニックス・シーガイア・リゾート。雄大な日向灘を望む海岸沿いの松林の中に、ホテルやゴルフ場、温泉、会議場が集まった総合リゾート施設だ。対局室は、その中のシーガイアコンベンションセンター内に設けられた。昨年5月には第69期将棋名人戦七番勝負の第3局も指されている。
センター隣のホテルのロビーには、当時の羽生善治名人と森内俊之挑戦者の直筆サインが展示されている。その周りにはゴルフのタイガー・ウッズ選手やサッカー日本代表の本田圭佑選手、プロ野球・福岡ソフトバンクホークスの小久保裕紀選手など、大会やキャンプでこの地を訪れたスポーツ選手のサインも。そうそうたる一流アスリートの中に、いま戦っている両対局者の名前も間違いなく加えられることだろう。
■迫力の前夜祭、両対局者は興奮ぎみ
ドン、ドン、ドン、ドン、ドン……。地鳴りのような力強い太鼓が響くなか、神の装束をまとった「神楽の舞」に先導され、山下名人と羽根挑戦者が入場した。26日夕、シーガイア・コンベンションセンターで開かれた前夜祭は、さすがは神話のふるさと・宮崎を思わせる迫力の歓迎だった。
今年は「古事記」編纂(へんさん)1300年の記念の年。古事記に書かれた物語の多くは宮崎が舞台だ。宮崎青年会議所太鼓同好会の皆さんのバチを握る手にも、いっそう力がこもったに違いない。
この大歓迎に両対局者の気持ちは明らかに高ぶっていた。先にマイクの前に立った羽根挑戦者は「明日の対局で気合が入りすぎてしまうんじゃないかと思うくらいの大迫力でした」と体を震わせながら語った。「バランスをとりながら打って」と続けるあたりは、いかにも冷静な挑戦者らしいが、「大事なところで、思い切って、今日の太鼓のような勢いのある碁が打てたらいいなと思っています」と締めた。
宮崎は蛤(はまぐり)碁石と榧(かや)の碁盤の名産地として名高く、今回は地元産の最高級品が使われている。挑戦者は「とてもすばらしい碁盤と碁石を用意していただいた。自分の力をすべて出して最高の一局にしたい」と語って拍手を浴び、地元ファンの心をつかんだ。
名人戦前夜祭は、挑戦者が先に決意表明するのが「定石」。こうなると山下名人のあいさつが難しくなるものだが、まったく負けてはいなかった。「『神楽の舞』で先導していただくのは初めての経験で、非常に思い出深いものがありました。太鼓もすばらしい迫力。非常に元気をいただいて、明日からの対局に臨めます」。これだけだと挑戦者のあいさつの後追いととられる可能性もあるが、名人はこう続けた。「自分は対局で行ったところをすぐに忘れてしまうんですけれど、宮崎は違う。10年くらい前の棋聖戦(2003年)で非常に内容のいい碁を打って勝ったイメージがある」。そして、拍手が起きると「はい、ありがとうございます」とちゃっかりアピールし、「明日の対局も、非常にいいイメージをもって挑める」とダメ押しした。
熱烈歓迎に両者はすっかり酔わされた様子。体内にしみこんだ太鼓の残響が、勝負をより過激にしないか心配だが、観戦する立場からはそうなってほしい気もする。
■第3局始まる/挑戦者の第一着は「右上小目」
山下敬吾名人(34)に羽根直樹九段(36)が挑戦している第37期囲碁名人戦七番勝負(朝日新聞社主催)の第3局が27日、宮崎市のフェニックス・シーガイア・リゾートで始まった。ここまでは互いに白番を入れあい、1勝1敗のタイ。先に2勝目を挙げるのはどちらか、注目の一番だ。
定刻の午前9時、立会人の武宮正樹九段が「時間になりましたので、始めて下さい」と対局開始を告げ、先番の羽根挑戦者が第一着を右上小目に打ち下ろした。山下名人は左上星と応じた。
対局は持ち時間各8時間の2日制。28日夜までに決着する。
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