1〜5手
ゆかりの地で開幕
「お願いします」と頭を下げてすぐ、張栩名人はすっと手を伸ばし、第一着を右上小目に打ち下ろした。10台ものカメラのフラッシュが一斉にたかれ、まぶしい。待ちに待った七番勝負、開幕の瞬間だ。
節目の30期を迎えた名人戦第1局の舞台は、相模湾が目の前に広がる神奈川県平塚市のホテルサンライフガーデン。
平塚市は大竹英雄名誉碁聖や石田芳夫九段ら多くの一流棋士が輩出した木谷道場があったゆかりの地。囲碁の文化振興に力を注いでおり、「囲碁のまち」として活動を始めて、こちらも10周年の節目にあたる。
木谷実九段門下の小林覚挑戦者はもちろん、木谷九段の孫・小林泉美六段が妻の名人にとっても、平塚は縁が深い。ふたりがこの地で相まみえることを「木谷先生もきっと喜んでいらっしゃる」と、小林の兄デシでもある武宮正樹九段。
関係者や報道陣が退室すると、小林は眼鏡をかけ、体勢を整えた。びしっと音を立てて打たれた白2は左上小目。ここですぐ黒Aにカカるのを、名人は得意にしている。
受けて立とうという小林の気合をそぐように、名人は黒3と左下に向かった。「今年に入って名人の黒3も見るようになりました。早くも両者、力が入っていますね」と解説役の大矢浩一九段。
四隅が占められるまで13分。両対局者らしい、速い進行だ。
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(内藤由起子)
2005年10月04日