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黒陳嘉鋭  九段   対   白趙治勲  十段

錯覚

2008年03月07日

 陳は「おかしいなあ。ひどいですね」とボヤいていた。白にうまく決められて黒55のサガリを余儀なくされたのだ。参考図の黒1、3で間に合わせ、5の攻めに回るのは無理。白12までで隅を本コウにされてしまう。

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棋譜

 ここで信じられないことが起こった。黒57と備えて白58とカカえさせた陳の右手が、じゃらっと碁笥(ごけ)の中の黒石をつかむ。そして一瞬、手が出かかった。

 どう説明していいかわからないが、手の目指す先は黒Aに向いていたように思う。「なんだ? こんなことがあるのか。ひどい。えー」。陳のボヤキは先ほどとは比較にならなかった。Aと逃げ出しても右上小目の黒石をすり抜けるようにシチョウに取られている。痛恨の錯覚だった。

 「タラレバ」をいわせてもらうなら、仮にシチョウは白が悪く、白58でBとカケるしかないのならば、黒Cのコスミが強烈な狙いになる。陳の落胆ぶりは大きかった。

 陳は黒59、61と構えて一戦交える覚悟。趙は白66、68と一歩一歩の着実な手を選ぶ。こちらは優勢を意識している。

 黒79で右辺は広大になる。劣勢を意識する陳には歓迎すべき進行かもしれない。趙の形勢楽観なのか。白は右上80にツケる。そう、囲わせてから手をつけていくのが治勲流だった。

(伊藤衆生)

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