◆張名人が勝ち、タイに
静岡県熱海市の「あたみ石亭」で打たれていた第33期囲碁名人戦七番勝負(朝日新聞社主催)の第4局は、9日午後5時13分、164手までで白番張名人が中押し勝ちし、2勝2敗に追いついた。持ち時間8時間のうち、残り時間は張名人が58分、井山挑戦者が24分。第5局は15、16の両日、静岡県伊東市の「わかつき別邸」で。
●○名人、失着逃さず/武宮陽光の目●○
名人の積極的な打ち回しが光った1局でした。序盤、白36のノゾキが利いて、中央の白がうまく整形され、名人が一本とりました。ただ、1日目終了時点では白の上辺のサバキがうまくいくか微妙で、黒93で94と取っていれば、両辺の白への攻めと左上の白地への荒らしが狙えて、黒の楽しみの多い局面だったと思います。実戦の93は「空白の一着」とでも言いましょうか、94からの絞りを食っては黒がいっぺんに苦しくなりました。
その後、白の優勢が続き、このままヨセても白が良さそうでしたが、名人の白152から164までの手順が鮮やかな決め手で、投了やむなしとなりました。
黒も中盤、盛り返し、これから寄りつきを始めようという矢先の失着だったので、悔いが残る一局になってしまったかもしれません。失着を逃さず、的確にとがめた名人はさすがでした。
七番勝負は振り出しに戻りました。どちらが先にあと1勝とするか、第5局に注目です。2日間、ありがとうございました。
●○決め手が出たか/武宮陽光の目●○
長考の末の白152が厳しいキリでした。黒も153から一杯の頑張りですが、白162のハサミツケから白164とノビたのが強烈で、黒の地中に手が生じてしまいました。どうやら決め手が出たようです。終局は近いと思います。
●○いよいよ終盤、名人優勢か/武宮陽光の目●○
黒は中央の白に寄りつきながら壁を作り、中地を築きました。白142、144で左上の白地も確定し、いよいよヨセに入りました。
ここのところ、名人のボヤキが目立ち始めましたが、悲観しているわけではないはずです。形勢は白がやや良さそうに見えます。
◆対局室の掛け軸
対局室の床の間には「松樹千年翠」と書かれた掛け軸がある。禅文化研究所(京都市)によれば、「松樹(しょうじゅ)千年の翠(みどり)」と読み、中国の禅僧・石田法薫(せきでん・ほうくん)の法語に由来する。石田は弟子たちにこう説いたという。「世間の人々は、牡丹(ぼたん)が豪華な花を開くと、それがたちまちにうつろう一時の美であるのに、その美に魅せられ、大はしゃぎをするが、松の変わらぬ翠の美を理解する人は少ない」。表面的な現象に心を奪われるのでなく、本質を見つめなさい、という意味が掛け軸の言葉に込められている。
●○焦点は下辺へ/武宮陽光の目●○
黒109と出た手は良かったかどうか微妙です。110と打った方が眼形を与えなかったかもしれません。白118までで上辺の白の生きがはっきりしました。左上にも大した手がなさそう。黒に楽しみが少なくなりました。
あとは下辺の白にどれだけ攻めが利くかが焦点。取ることはできないでしょうが、どれだけ攻めの余得があるか。白がうまくやったので若干良さそうに見えますが、まだまだ先は長そうです。
◆三好徹さん登場
控室には、愛棋家で知られる作家の三好徹さんが訪れた。関係者らと盤を囲んで熱心に検討している。「井山さんは19歳ですが、棋士としては未成年ではない。堂々としてかんろくがある。(昭和の碁聖と呼ばれた)呉清源さんが日本に来た時の雰囲気に似ていると思います」。
◆対局再開
午後1時対局が再開した。挑戦者は少考の後、下辺のキズをツナいだ。
◆昼食休憩に
挑戦者が107手目を考慮中に昼食休憩に入った。名人はすぐに退出したが、挑戦者は座ったまましばし思案してから、対局室を出た。消費時間は挑戦者が5時間52分、名人が4時間33分。
●○形勢、白に好転/武宮陽光の目●○
黒93が疑問手。白94から98の切り込みが手筋で、黒石がダンゴになってしまいました。これによって上辺の白石の眼形が手厚くなった上に、左上の白の地もだいぶ味が良くなりました。黒93では94と押さえて、左上の白地を荒らす手と上辺の白を攻める手とを見合いにしておけば、黒に楽しみの多い形勢だったかもしれません。局面が白に好転したと思います。
●○黒のカラミ攻め/武宮陽光の目●○
おはようございます。2日目も解説を担当します。よろしくお願いします。
封じ手は予想通りでした。白86は堅い手でやや打ちづらいかなとも思ってましたが、本手と思います。ただ、堅いとは言ってもまだはっきり眼形があるわけではないので、これから黒がどう攻めて白がどうサバくかが注目されるところです。
黒89のハネは少し気づきにくい手ですが、打たれてみるとなるほどと思いました。下辺の白のダメ詰まりを強調した手です。白のキリに対してはアテ返す予定でしょう。下辺からの白にもたれながら、上辺の白石を狙っています。
◆再開、封じ手は12の六
張栩名人(28)に井山裕太八段(19)が挑戦している第33期囲碁名人戦七番勝負第4局は9日、静岡県熱海市の「あたみ石亭」で再開され、2日目が始まった。初日と同じで井山挑戦者、張名人の順で入室。午前9時、対局が再開された。封じ手は12の六のアテだった。