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囲碁・将棋の小説続々 「勝負」に焦点、悲喜照らす

2011年2月28日

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写真:左から塩田武士さん『盤上のアルファ』、貴志祐介さん『ダークゾーン』、犬飼六岐さん『囲碁小町嫁入り七番勝負』拡大左から塩田武士さん『盤上のアルファ』、貴志祐介さん『ダークゾーン』、犬飼六岐さん『囲碁小町嫁入り七番勝負』

 囲碁や将棋を題材にした小説が、相次いで刊行された。実在人物がモデルの小説やミステリーで描かれることの多い題材だが、いずれも架空の人物を登場させて「勝負」の側面に強く光を当てている。勝ち負けのはっきりする「盤上」の戦いを通じ、人生の悲喜が照らし出されている。

 『悪の教典』で山田風太郎賞を受賞した貴志祐介さんの『ダークゾーン』(祥伝社)は、将棋のプロを目指す棋士が異空間に飛ばされ、自身が「駒」になって七番勝負を戦う物語。棋士が抱える現実に即した苦悩と、SF的な盤上戦を並行して描く意欲作だ。

 塩田武士さんのデビュー作『盤上のアルファ』(講談社)も将棋のプロを目指す男が主人公。プロ入りのための8局の勝負に挑む姿を描いた。『蛻(もぬけ)』が直木賞候補になった犬飼六岐さんは『囲碁小町嫁入り七番勝負』(同)で、町娘が嫁入りを賭ける七番勝負を描いている。

 振り返ると、川端康成が実在した囲碁名人の引退対局を描いた小説『名人』など、囲碁将棋小説の伝統はあった。ただ、日本将棋連盟の広報課は「実在の人物がモデルの『名人』のような小説でなければ、ミステリー小説がほとんどだと思う」と話す。

 『囲碁殺人事件』『将棋殺人事件』を書いた竹本健治さんは「論理的に先を読むゲーム性が事件を解決する推理と似ていて、ミステリーの題材にはしやすい」という。一方で、「勝負」の側面を前面に描くのは「ハードルが高い」。ルールや盤上の様子を物語に溶け込ませる必要があり、肝心の勝負の行方が分かりにくくなるからだ。

 そこで3作とも工夫を凝らす。貴志さんは七番勝負を単調に見せず、かつ盤上のルールを理解してもらうために「番数を重ねるにつれてルールが分かるようにし、同時に戦略が深まるようにした」。

 将棋を描いた塩田さんは、棋士が体を揺らす無意識の動きを描写し、盤面の緊迫を伝えた。観戦記者の視点で書くことで「棋士の表情やしぐさを描けた」。犬飼さんは囲碁を始めた子ども時代を描き、「ルール説明を物語に組み込みました」と話す。

 囲碁将棋の愛好者で文芸評論家の西上心太さんは、もう一つのハードルを指摘する。「現実の棋士に魅力がありすぎ、それに勝てるフィクションがなかった」。将棋の名人に挑み続けながら29歳で死去した村山聖(さとし)さんを描く『聖の青春』など、実在の棋士のキャラクターが小説以上に強いのだ。

 将棋好きの貴志さんは連載を本にまとめる際に、棋士の現実世界を描いた場面だけを読み返した。「違和感があった」と大きく書き直した。「実際の棋界も光と影がある。こんな話じゃない、と登場人物の声が聞こえた」と言う。将棋界の取材も重ね、「アイデアから完成まで10年くらいかかった」と話す。

 そんな苦労を乗り越えてまで、なぜ勝負を描くのか。貴志さんは「人生は1回の勝負では済まない。挫折しても諦めずに挑み続ける姿を伝えたかった」。犬飼さんは時代小説で決闘を描いてきたが、相手が死ぬと敗者の心情が書けなかった。「私も負けばかり。敗北を乗り越える話が書きたかったんです」と話す。

 勝負の側面を描くのは、「負け続き」の現代の鏡なのかもしれない。塩田さんは「将棋は勝敗ではっきり明暗が分かれる」と言う。「人生は勝敗から逃れられない。負けるつらさがわかるからこそ手に汗握るのだと思います」(高津祐典)

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