視覚障害者用の囲碁セットで対局するオードュアルさん(右)
新作の盤石。平らで、線状のくぼみがあるのは碁石の裏側
東京で開かれていた第29回世界アマチュア囲碁選手権戦のフランス代表のピエール・オードュアルさん(41)は弱視のプレーヤー。愛用の、約5ミリもある太い線の特製碁盤を持参して大会に出場した。視覚障害者用の囲碁セットを紹介するイベントにも参加して、福祉活動にも一役買った。
■線太い特製碁盤、持参
オードュアルさんは、フランス選手権ファイナルで8勝1敗を挙げ、初の世界アマ出場権を手にした。囲碁のインストラクターをしているアマ五段だ。眼前の相手の顔すらはっきり分からないほどの弱視で、碁を打つときは1ミリ程度の通常の碁盤の線を太くし、盤の真上からライトで照らす。「大会に出るときも、こうすれば大丈夫です」
囲碁を覚えたのは今よりも見えていた14歳の頃。「最初に教わった人に石を皆殺しにされ、ショックでした。でも次の人はとても丁寧に教えてくれ、囲碁が好きになれた」
90年代後半、ヨーロッパの子どもたちに碁を教えたのがきっかけになって指導の道へ進み、囲碁の本も出版した。普段教えている子どもたちには特殊な教え方も取り入れる。「簡単な詰碁の問題を、紙に書かず碁盤の座標だけを伝えて解かせる。繰り返すと、驚くほど子どもたちの棋力が向上するんです」。視覚障害者という立場が、逆に有効な上達法を発見させた。
根底にあるのは「音を活用した囲碁」という夢だ。「碁を棋譜に残すことが難しい。打ったところから音が出て座標を知らせたり、インターネットを利用したりすることで実現できないか。音による定石のデータ集もあったら視覚障害者には便利。そんな研究もしています」
楽しむことだけを考えたという世界アマは5勝3敗(参加68カ国・地域で第17位)。「年も取ったし、残念ながら年々見えなくなっている。だからこそ、囲碁はもっと強くなりたい」
■碁盤に穴、石にピン 障害者用新作
世界アマ開幕の前日、目の見えない人でも打てる囲碁セットの新作が公開され、オードュアルさんは使い心地を試した。
大阪商業大、神戸芸術工科大、日本障害者囲碁普及会による共同開発。従来品の問題点を実際に障害者に聞きながら、1年余りで19路盤と9路盤の2種類を完成させた。
外観は、通常のものとほぼ同じ。碁盤の線は盛り上がっていて、石を打つ場所には小さな穴がある。黒石の先端に1ミリの突起があり、色を手で感じることができる。底には碁盤の穴にはめ込むためのピンと、線にかみあわせるくぼみがある。
対戦相手は、ほとんど目が見えない中丸仁さん(31)。オードュアルさんも、線が太い持参の特製碁盤ではないので手の感覚が頼り。両手で碁盤の上をなでるように触って打つ場所を探しながら対局が始まる。2人の手が盤上で重なり合い、時には打ったばかりの石をツメで「カチカチッ」と鳴らすさまは、さながら囲碁の俗称の「手談」を思わせる。「星」「サガリ」などと口頭で場所を知らせることもあり、勝負を争いながらもかなり友好的だ。
オードュアルさんは「最初は戸惑ったけれど、だんだん慣れてきた。とてもいい碁盤」と満足げ。盤面を触るうちに盤上の石が動くこともあり、「ヨセまで打つのは難しいですね」とさらなる改良に期待をかけた。
大阪では毎年、視覚障害者のための9路盤の全国大会が開かれている。大阪商業大の谷岡一郎学長は「従来品は、外観が一般のものと大きく異なっていたり、石が固定されすぎて取りづらかったりという問題があった。新作に微調整を加えて量産し、海外にも広めたい。将来的には視覚障害者の世界大会が実現できたら」と話している。(伊藤衆生)