春になると、日本の空に中国大陸から黄砂が飛んでくる。これで驚いている日本人は、本場の「砂あらし」を見たことがないのだろう。この3月に北京に1週間滞在したが、そのうち3日間もそれに出会った。高速道路を走る車は100メートル先が見えない。北京空港は視界不良で一時閉鎖した。砂あらしは今年、例年より早く広く発生し、北部各地を12回も襲った。
その原因は西北部地域の生態環境の悪化だ。全国の砂漠面積は日本の面積の4倍に当たる162万平方キロにのぼっている。乱開発と自然破壊で90年代に入って毎年、神奈川県相当の面積が砂漠化している。北京に最も近い砂漠は70キロしか離れていない。年に26メートルの速度で北京に迫っている。全国人民代表大会で西部大開発の大号令が正式に出された背景の一つは、まさに、生存基盤を脅すこの環境問題の対策にある。
西部大開発にはもちろん、沿海部との経済格差を縮小するという狙いもある。所得・教育水準などの格差はこの20年でさらに広がった。1人当たりの所得水準は西部が東部の約10分の1にすぎない。地域間格差の拡大は21世紀の持続的成長の見通しを暗くしているだけではなく、西部地域に住む少数民族の離反、社会の不安定ないし国家分裂ももたらしかねない。
中国はすでに2度にわたって西部開発に取り組んだ。1回目は50年代に旧ソ連の援助を受けた内陸部での工業施設建設で、2回目は60年代、米ソの侵略に備えて多くの工業基地を内陸部に移したことだった。しかし、インフラ整備や他産業の育成には波及しなかった。
江沢民、朱鎔基指導部はいま、環境対策と民族問題など、かつてより、もっとせっぱ詰まった理由で西部大開発を打ち出した。政府開発資金、建設国債および海外からの開発援助のそれぞれ七割を内陸部に投下する。さらに、山梨県の広さに相当する荒れ地・荒れ山、及び奈良県の広さほどの畑を、林や草地に変える環境対策、道路や水利施設の整備、大学の増設などの事業を今年から進める。
米国の西部開拓にたとえられる今回の決定は確かに本格的なもののようだ。ただし成功するかどうかは予断を許さない。市場原理に基づいて人材や資金・技術を内陸部に延々と向かわせる環境がつくれるか。次に、西部地域の閉鎖的・保守的な意識と、硬直化した行政組織を抜本的に改造できるか。
いずれにしろ、短期間で成果をあげることはあまり期待できないだろう。政府ブレーンの経済学者、胡鞍鋼は西部大開発を百年の大計ととらえ、長期戦略を立てようと呼びかけている。