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今週のコラム
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日朝会談、中朝関係にも影響
李 鋼哲(リ・ガンジェ)
延辺大学客員教授(中国)

9月の日朝首脳会談と平壌宣言は、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)と「友好関係」にあった中国に、対北朝鮮政策の戦略的な転換を迫ることになるだろう。

北朝鮮の予想外の譲歩と日朝の接近は、中国に困惑と懸念をもたらす。北朝鮮の不安定化は困るが、日本や米国に接近しすぎても別の不安定要因で困るのだ。

冷戦の終焉で朝鮮半島を中心とする北東アジアのパワーバランスは崩れた。韓国は旧ソ連、中国と国交を正常化したが、北朝鮮は米国、日本と関係改善ができず、国際的に孤立して経済的に深刻な打撃を受けた。

北朝鮮が困窮に陥ると一番困るのは中国である。北朝鮮が崩壊に直面し、東西ドイツの統一のように南が北を吸収統一したら、在韓米軍が中国国境まで押し寄せる可能性もあり、中国にとって軍事的な脅威が増大すると中国は認識している。北朝鮮から大量の難民が発生すると、中国はもっとも大きな被害を受ける。

92年の中韓正常化前後から中朝関係は急速に悪化した。中国側は91年の南北国連同時加盟を待って韓国との国交を樹立したが、北朝鮮からみれば中国の背信行為。中朝関係は急速に冷却し、北朝鮮首脳部は中国に対する強い不信感を抱くようになった。

革命世代による伝統的な友好関係は、金日成主席が亡くなると、有名無実になってしまった。トウ小平氏は何度も金正日国防委員長の訪中を要請し、「改革開放は北朝鮮が生き残る唯一の道」と助言したが、北朝鮮は耳を傾けなかった。

今度の日朝会談でも、事前に中国に通報したという情報はない。先月発表された「新義州経済特区」設置決定も事前に相談した形跡がない。国境近くに経済特区を設置しながらも中国側に配慮しなかったのは、中国を無視したことになる。経済特区の長官に任命された楊斌氏が中国当局に連行・軟禁されたことは、北朝鮮の対中無視に対する警告であるかも知れない。

2002年10月26日


関連記事:北朝鮮の動きをどう見るか

改革支援 日本にも有益
  

朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の最近の動きをどう見るか。朝鮮族出身の中国人専門家、李鋼哲・延辺大学客員教授は、北朝鮮は本格的な経済改革に踏み出そうとしていると見るが、困難が多く、日本の支援が必要だと指摘した。

--北朝鮮が変化しているようにみえます。国内でも改革が進んでいるのでしょうか。

「前向きの変化と受け止めている。4月に訪朝した際、北朝鮮の高官は『改革ではなく改善だ』と強調した。従来の路線に誤りはないから改革の必要はない。ただ、情勢変化に合わせて改善はするのだという原則論だ」

「だが拉致問題では、自国のメンツをつぶしてでも犯罪と認めた。新義州の特別行政区の設置といい、今夏の国内の物価・賃金の引き上げといい、金正日総書記が何らかの形で変革しようとしているように感じられる」

--中国の経済改革と比較するとどうですか。

「中国は70年代に西側諸国との関係改善を進めることで、大胆な経済改革を可能にする国際環境を作り出した。北朝鮮も金日成時代から経済改革を試みていた。70年代には西側からのプラント輸入があり、84年には外資導入のための合弁法も作った。90年代には、中国国境近くに羅津・先鋒経済特区を設けた。だが、うまくいっていない」

「北朝鮮にしてみれば、中国やベトナムの改革開放政策に学ぼうとしたのだが、国際環境がそれを許さなかった、と言える。米国とは停戦状態のままで、経済制裁も解除されず、安全保障上の危機が続いているのだ」

--今回の改革は従来と違うのでしょうか。

「金正日氏は昨年1月に上海を訪れ、初めて公式に中国の改革開放政策を肯定的に評価した。それまでは、中国の改革開放を『修正主義』と批判していたのだ。北朝鮮が本格的に改革に取り組む転機になったと思う。米国や日本への姿勢も、安心して開放できる条件を作りたいという狙いがうかがえる」

--中国と北朝鮮は現在どういう関係でしょう。

「ソ連の崩壊後は中国が北朝鮮を支援してきた。中国も朝鮮半島の不安定化を避けたいからだ。ただし『友好関係』と言いながら、92年の中韓国交正常化は、北朝鮮首脳部には『裏切り』とうつり、根強い中国不信があったと思う。金正日氏は00年まで訪中要請に応じなかったし、中国指導部との特別な関係もない」

「中国側も北朝鮮に大きな影響力を行使できていない。北朝鮮が中国との国境近くにある新義州に特区を置いたのは、中国の経済力や中国に進出している外資を活用するねらいがあったと思う。ところが、特区設置にしても日朝首脳会談の開催にしても、事前に中国に相談した形跡はうかがえない。新義州特区の楊斌(ヤン・ビン)長官が中国当局に拘束されたことは、中国からの警告かもしれない」

--北朝鮮の改革に成功の見通しはあるでしょうか。

「羅津・先鋒特区は120社ほどを誘致したというが、稼働しているのは香港やシンガポール、中国などの企業30社ほどだろう。改革が進まない原因には、対外的な孤立とともに、官僚制の弊害がある。かつての中国以上で、今後も強い抵抗が予想される」

「今夏の物価引き上げと同時に一部で配給制度もやめた。これで国家による統制がどこまで効くかという問題もある」

「他方、北朝鮮には潜在的な可能性もあると思う。人口2千万人程度で小回りが利き、国民の教育レベルは高い。隣に中国という巨大市場があり、将来的には日本からも支援を期待できる」

--日本はどう向き合うべきなのでしょう。

「北朝鮮を『敵』のままにしておけば、得をするのは米国だけだ。逆に北朝鮮を変えることに成功し、北東アジアを平和な地域に変えられれば、米軍がこの地域に存在し続ける理由は薄れる」

「北朝鮮の改革開放を支援することは日本にとっても有益だ。日本の国際的な地位やイメージを向上できるだけではない。北朝鮮も市場化への流れに合流させることができれば、欧州連合(EU)のように北東アジア地域全体の相互依存を深める道が開ける。これは日本経済にもプラスになるはずだ」

(聞き手は企画報道部・水野孝昭、塩倉裕)

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李鋼哲氏の横顔=59年、中国・吉林省の延辺朝鮮族自治州で生まれる。同省の人民公社で働いた(農業・会計係)あと、北京の中央民族大学哲学科を卒業。91年に来日。立教大学で博士課程の単位取得。東京財団の研究員などを歴任。羅津・先鋒特区などを視察し、北朝鮮の経済改革に詳しい。環日本海総合研究機構(INAS)の主任研究員、秋田経済法科大学の非常勤講師も務める。  

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