源義経=チンギス・ハーン伝説や井上靖の小説「蒼(あお)き狼(おおかみ)」、司馬遼太郎を引き合いに出すまでもなく、モンゴルは日本人の夢をかき立てる国だ。「蒙古斑(もうこはん)」や言葉の系譜など共通の祖先を持つという説もある。日本との間に歴史問題や国境問題が残っていない唯一の近隣国であることも親近感の一因だろう。モンゴルから見ても日本は最大の援助国。朝青龍の活躍で大相撲中継のテレビ視聴率はモンゴル相撲を上回り、日本文化への関心は高い。
こうも親しい間柄だが、交流の実態は必ずしも芳しくない。経済を見ると、モンゴル最大の輸出先は中国で、昨年は2億8千万ドル、全体の44.6%を占めた。日本向けは全体のわずか1.4%で、米国、ロシア、韓国に次いで5位。遠い米国は、モンゴル支援のために繊維製品の輸入割当量を拡大して、モンゴルからの輸入を5年間で倍増(1億4千万ドル)させ、中国に次ぐ輸出市場に浮上した。直接投資や人的交流の面でも、中国勢がモンゴルを席巻し、伝統的なつながりから2番手につくロシアを韓国勢が追い上げている。
日本は、98年にモンゴルとの共同声明で両国の「総合的なパートナーシップ」強化をうたったが、依然として他の近隣国に後れをとっている。ODAでは日本が最大の援助国(02年までの累計1237億円)でモンゴル人は感謝の気持ちを忘れない。だが、本音の部分でモンゴルが熱望しているのは、より積極的な投資や日本市場の開放だとウランバートルで度々聞いた。
「実利」は別にして、相互の関係を強めるうえで参考になるのがモンゴルの全方向自主外交だ。日本と違って、どの隣国とも大きなトラブルの種を持たず、9千人あまりの軍隊で日本の5倍の領土を守り、建国以来80年以上大きな戦争に巻き込まれたことはない。その秘訣(ひけつ)は、モンゴル人の巧みなバランス感覚に他ならず、懐の深さでもある。かつてチンギス・ハーンが欧亜大陸を征服し一大帝国を築いたが、そのためにモンゴルに「歴史的憎しみ」を持つ国が現在ほとんどないのも、帝国後のモンゴル人の巧みさがあったからであろう。日本を含めた東北アジア諸国は、学ぶべきことが大いにあるだろう。