私は3年前からインドネシア国軍の参謀司令官学校で日本の社会・文化について講義している。陸海空の大佐級の将校が准将に昇進するための必須課程だ。4月の討論で目立ったのは、なぜ日中・日韓関係がこれほど悪化したかだった。
インドネシアも他の東南アジア諸国と同様、第2次大戦中に日本の軍政下におかれ、犠牲を強いられた歴史がある。受講者たちは、日本の過去だけでなく最近の歴史教科書、靖国参拝、領土問題についても関心があり、よく知っている。だが、彼らにとって、中国での反日デモと日中両政府の対応は歯がゆく、理解しがたく映った。
バンドン会議50周年の記念会議が4月にジャカルタで開かれた際の、小泉首相と胡錦涛中国国家主席の会談は平行線をたどったようだ。インドネシア紙の社説や読者投稿は、日中関係の悪化への懸念が目立った。
インドネシアの世論が日中関係に敏感に反応した背景には、対日関係が重要かつ良好なことに加え、中国との関係も一段と深まってきている現状がある。
60年代半ばに発足したスハルト政権は、中国との外交関係を凍結していたが、中国の経済自由化政策に伴って90年に国交を正常化。98年のスハルト政権崩壊後には、1千万人ともいわれる在インドネシア華人に対する政策的差別が撤廃され、中国文化も広く受け入れられるようになった。中国の経済成長と対インドネシア投資の高まりへの期待感も強まっている。
一方、日本との関係も極めて深い。インドネシアにとって輸出入とも最大の相手国で、直接投資の累積額でも日本は第1位だ。70年代の一時期に反日暴動が起きたが、現在の世論、国民感情は、日本との関係について過去より未来を重視する傾向が強い。
だからこそ、インドネシアの経済再建にとって、またアジアの政治的な安定、経済発展にとって、日中の良好な関係が不可欠であることが強く意識されているのだ。今こそ、日本が歴史問題の克服に向けて真摯に努力し、中国も日本の努力に理解を示し、日本国内世論の多様性にも耳を傾けることを、インドネシアおよびその他のアジア諸国は強く期待している。