韓国の、最新のある世論調査で「今年最も心配すべき出来事」に「姜教授の親北反米発言」(27%)がトップに選ばれた。東国大学の姜禎求(カン・ジョング)教授(60)が今夏、コラムで「朝鮮戦争は北朝鮮の指導部が試みた統一戦争だった」「米国は恩人ではなく生命を奪った敵だ」などと主張、波紋を広げた一件だ。
私が11月中旬、ソウルで会った友人らとの会席でも専らこの発言が話題に。「学問的な主張だから理解すべきだ」「韓国体制を全面否定しているから処罰すべきだ」と意見は二分され、大声でやり合う一幕もあった。家族間でも賛否の激論が起き、感情対立の溝が埋められないケースも少なくない。朝鮮半島の南北問題と対比して「南南葛藤(かっとう)」と呼ばれる韓国内の対立が、「理念的内戦」状態にまで悪化しているのだ。
北朝鮮の主張とそっくりな教授の発言に、保守系の市民団体などが国家保安法違反の疑いで教授を告発。検察は10月中旬、逮捕の方針を固めた。しかし、保安法廃止を目指す政府・与党は韓国史上初めて法相の指揮権を発動して逮捕せずに調査することを指示。検察総長が反発して抗議辞任する事態に発展した。
姜発言だけではない。テレビでの哲学講義で人気の高い元高麗大学教授(57)は、8月の教育テレビで「金日成の抗日闘争」を北朝鮮の政治宣伝そのままに紹介し、物議をかもした。
金大中(キム・デジュン)前政権の「太陽政策」を継承する盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権が3年目の今、「親北反米」の流行は若者だけでなく知識人社会にも広がり、改革・進歩が「かっこいい」ことになった。一方の保守は、独裁や南北分断を容認、助長させ、民族の統一を妨げる「悪の根源」と見なされている。保守陣営には「民主化の後は共産化か」との声もでている。
経済力世界11位、民主化が定着している韓国になぜ今この現象なのか。
建国以降の独裁・軍事政権下での反共体制強化や対米偏向など、50年余の保守・右翼体制への反動が進歩・左派寄りの盧政権下で噴出していると思われる。左へ傾きすぎるとまた右への反動を呼ぶかもしれない。
理念を巡る深刻な対立をどう克服するか。韓国社会の重い課題になっている。