グローバル化の時代とはいえ、労働力の自由な国際移動は難関の一つだ。それでも、完全に自由な国際労働市場を夢見る途上国は少なくない。アジアでは、フィリピンやインドネシアなどが代表格。目指すは日本をはじめ、少子・高齢化で悩む先進国である。
外貨獲得策として手っ取り早いが、見落とされているのは、送り出す側に経済苦境脱出の具体的プランが乏しく、過去30年間をみても、「出稼ぎ大国」の間では経済の改善、競争力向上が見えていない事実だ。
世界有数の「出稼ぎ大国」フィリピンは、人口のほぼ1割、800万人近くを船員、看護師・介護士、家政婦、教師などとして世界中に送り出している。比中央銀行によると、出稼ぎ者からの本国送金は昨年103億米ドルに達した。前年より2割多く、国内総生産の10%に当たる。10年前の2倍以上。非公式の送金もあり、実際の額は公式統計を大きく上回るはず。
だが、大半は衣食住や医療などの日常支出に消えてしまい、貯蓄や生産的投資に使われるのは一部だ。国内に働き口を生み、所得を増やす効果が見られない。比経済が競争力を持ち、出稼ぎをしないですむようになるための基礎である子供の教育支出はわずか2・8%。かつて肩を並べていたタイやマレーシアの経済に水をあけられている。
労働力の海外流出で即戦力の人材確保が難しくなった、と比国内の企業は嘆く。日本も受け入れを決めた看護師・介護士の場合も優秀な人が真っ先に海外に流れ、国内医療体制の劣化が心配されている。
施しや援助に頼るより、出稼ぎによる送金の方がましともいう。だが、いったん依存症にかかると、やめられなくなることも長年の経験から明らかだ。海外出稼ぎから健全な経済政策が生まれることはまれ。長期的には、地域全体の経済の足も引っ張りかねない。
その意味で、自由貿易協定(FTA)には送金依存経済を強化するリスクがある出稼ぎに替え、アジア地域が持つ優位点、研究開発や高等教育を基礎に前進する手だてを模索する必要がある。日本など出稼ぎ受け入れ国側も、出稼ぎが長期的にどんな事態を招くか、改めて留意すべきだろう。