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王敏(ワン・ミン) |
小泉首相が元日に靖国神社に参拝したことに対し、中国のインターネット掲示板には即座に大量の抗議や反発の意見が寄せられている。昨年秋の、日本人留学生の寸劇をきっかけとした西安市での抗議行動もまだ記憶に新しい。侵略された記憶を持っていないはずの中国の若者たちに広がっている「反日感情」の行方が懸念される。けれど一方で、中国での日本文化の最近の広がりは、大方の日本人の想像を超えるだろう。
小説では、村上春樹に続いて、桐野夏生、乃南アサ、鈴木光司の作品も翻訳されて読まれている。上海、北京での最近のベストセラーは写真入りの『盲導犬クイールの一生』だ。上海には日本式銭湯が十数カ所あり「浅草浴場」といった名前でお客を集める。回転ずしに触発された「回転ラーメン」も流行中だ。私はこうした動きを「日本現象」と呼んでいる。
長い農業国の歴史を持っている中国だが、この10年余りの農村人口の減少、都市人口の増加は有史以来のスピードだ。都市では「小資(プチブル)」と呼ばれる豊かな中間所得層の規模も、やはりかつてなかった規模に膨らんだ。「60歳定年制」の普及などで中堅層が力を発揮できる環境が整ったので、国外流出を続けていた優秀な頭脳もUターンを続けている。
優秀な人材を厚遇する外資系企業の職場などで、ごく自然にグローバルな視野を身につけた人たちが欧米や、東アジアで現代都市文化を作りあげた先輩である日本の様々なものに関心を持つ。たとえば物質的な豊かさの一方で、孤独感や虚しさを抱え、様々なストレスにさらされる都市の人間を描いた小説を味わう。
つまり、都市部の中国人の生活スタイルや「気分」が日本人のそれらに猛烈な勢いで近づいていることが、日本現象の最大の要因なのだ。
グローバルな視野はまた、自分たちのありようを相対的に見ることを促す。
思想界では、丸山真男の『日本政治思想史研究』(00年に中国語訳出版)が広く読まれ始めた。儒学を日本独自に発展させた荻生徂徠などについて考えた丸山の研究を学ぶことで、伝統的な「中華意識」を支えた儒教の見直しすら進み出している。
日本の中国研究や報道は充実してきたとはいえ、多くの日本人は最近の中国人のこうした心の大変化まではとらえ切れていない。中国の変化が速すぎることがその一因だが、日本人は中国が全体として「まだまだ遅れている」と何となく考えがちなことが、もっと大きな要因ではないか。
注意した方が良いのは、中国人の心の大変化に伴い、その集合体としての社会心理がとても不安定となってきていることだ。個人でも環境が変わると心が動揺する。気分が安定していれば受け流せたであろう「寸劇」に示した若者たちの過剰な反応、そして中国のネットでかわされる「反日」についての熱すぎる議論の背景に、この不安定さがあると私は考えている。
小泉首相は靖国参拝について中国などの理解を求めたいというが、逆に中国人の心理のこうした現状をどれだけ理解しているのだろう。少なくない中国の若者たちは日本のアニメやテレビドラマ、ポップスが好きなのだ。本当なら「日本現象」は日中交流をもっと豊かにしていくことができるはずなのにと、とても歯がゆい思いがする。