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 研究拝見
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連戦・宋楚瑜訪中とアジア太平洋地域情勢

林 華生
   早稲田大学大学院アジア太平洋研究科教授 (マレーシア)

【連・宋訪中のきっかけ】

最近、台湾野党の指導者、国民党主席連戦と親民党主席宋楚瑜が、相次いで中国大陸を訪問した。中国メディアや一般市民に加え、地方の党代表から中央の党総書記の胡錦涛まで、異例というべき最大級の歓迎を受けた後、台湾に戻った。

連・宋は何故訪中したのか。昨年3月29日の台湾総統選挙で、陳水扁や呂秀蘭に対する襲撃事件がなかったならば、連宋陣営は総統選に勝ったであろう。とすると、「連総統、宋副総統」のもとで、訪中は実現したかどうか。興味深いところである。

陳陣営の勝利により、「修憲(憲法修正)」、「正名(台湾名を正す事)」、「一辺一国論」など台独(台湾独立)の気運が高まった。中国大陸では、「反国家分裂法」という台独を牽制する法律が定められた。一方、日米両国が台湾海峡の平和を共同で維持する、という声明を発表するに至った。台湾海峡はにわかに、緊迫状態となり、軍事衝突が現実味を帯びるようになった。

しかし、台湾海峡における軍事衝突を望む国・地域はまずない。日米は台湾の堅固な後ろ盾であるが、本心は戦争を望んでいない。米国はアフガニスタン、イラク戦争の泥沼に嵌まり込んでいる。朝鮮戦争やベトナム戦争という悲惨な経験があるので、台湾を守るために、本格的な軍事介入はしたくないだろう。日本には、日米安保条約はあるが、米国の全面的なバックアップなしには、中国と対戦する自信はないと考える。

一方、中国は、1978年に改革開放政策を実施してから27年間、経済成長を成し遂げてきた。2008年に北京オリンピック、2010年に上海万博を控え、一層の経済発展を望んでおり、台湾海峡での軍事衝突を是非避けたい。しかし、台湾は北京オリンピックや上海万博開催前に、台独を宣言すれば、中国大陸は介入できない状況にあるだろうと分析している。

米国は台湾において、「不独、不統、不戦(独立しない、統一しない、戦争しない)」を望んでいる。つまり、米国は台湾海峡の「現状維持」を希求するが、コントロールできる範囲内での緊迫状態を容認するだろう。というのは、台湾は世界で米軍事製品の最大の顧客の一人であるからである。

日本は軍事的、政治的、経済的視点から考えれば、台湾を自由主義陣営にとどめる事が望ましいだろう。台湾海峡に戦争が勃発すれば、日本は直ちに戦争に巻き込まれてしまう恐れが十分考えられる。

目下、台湾海峡においての最善のシナリオは「現状維持」である。しかし、「現状維持」はいつまでも続くものではない。台湾では台独の気運が高まり、中国大陸では統一の願望が強まる。そこで、台独と統一の折衷案・妥協案として、連・宋の訪中が実現できたと考えられよう。

【連・宋訪中の狙いはどこにあるか】

連・宋の訪中は、台独と両岸軍事衝突を避ける所にある。つまり、両氏の訪中の目に見える成果は、台湾海峡の緊張緩和にあるに違いない。しかし、言うまでもないが、国民党や親民党の「家庭内の事情」もあろう。5年前の台湾総統選で、国民党と親民党がそれぞれ民進党に敗れた。1年前に国民党と親民党が連合して、民進党と対戦したが、再び敗れた。1回目の選挙で国民党は惨敗したが、親民党は微差で民進党に負けた。2回目の選挙で、国民党と親民党がようやく連合し、事前には民進党に楽勝すると見られたが、最後の段階になっては接戦となり、そして思いがけない襲撃事件で、再び敗れた。

台湾における"台湾化"や"脱大陸化"の進展に伴い、3年後に予期される総統選では、仮に連・宋の野党陣営の連合が再び実現しても、民進党に勝つ保証は何一つない。とすると、連・宋にとって選択肢は二つしかない。一つには、党内部の改革による再生である。連戦の党主席辞任による王金平と馬英九の対戦とその結果次第で、国民党の将来が決まるであろう。

もう一つは、大陸訪問による台湾支持層の拡大。台湾には、中間層というべく浮動票が多く、これらの投票の同国が総統選の結果を左右する。つまり訪中による中間支持層の拡大が緊急課題となる。そこで、党改革と中間支持層の獲得が次期総統選の勝利に繋がるのである。

【連・宋訪中をどう評価するか】

連・宋訪中の実現により、台湾海峡における軍事衝突の黒雲がとりあえず消えた。言うまでもなく、国共60年ぶりの平和会談による胡連5項目の共同認識や胡・宋会談による6項目の共同認識のもっとも重要なテーマのひとつは、92年における汪・辜会談の重要な成果である「92共同認識」における「ひとつの中国」という理念の再確認である。これらの共同認識により、台独の拒否や両岸における軍事衝突の回避が訴えられ、台湾市民の「現状維持」という強い願望に合致したかもしれない。台湾における民意調査によると、国民党や親民党に対する支持率が着実に伸びてきた。

連・宋訪中のもう一つの成果は経済貿易の強化にある。台湾の昨年の国際貿易黒字600億米ドル余りの中、500億米ドル余りが対中国大陸貿易の出超によるものであった。しかし、三通(郵便、通商、通航)が実現されていないため、人力、物力、財力が浪費されている。

一方、台湾農産物に対する中国大陸市場の開放は、台南を中心とする農民にとって、朗報であろう(台湾の総輸出に占める農産物輸出金額は小さいが民進党の選挙基盤に台南の農民が多いので、政治的配慮があるといわれている)。農民層の経済状況の改善が、国民党や親民党の支持に繋がるかどうか未知である。

また、連・宋訪中による両岸「自由貿易圏」や「経済共同体」の創設は、特に重要である。台湾はWTOやAPECには参加しているが、WHOへの参加は中国大陸によって拒否されている。現在、アジア太平洋地域における経済統合が進行している中、台湾は特に排除されている。長期的に見れば、台湾経済の発展に非常に不利である。「自由貿易圏」や「経済共同体」の具体的な内容と枠組み、そして如何に推進していくかはまだ明らかではないが、構想と展望は期待できるであろう。

【連・宋訪中の限界】

両岸関係の改善には、前からトウ小平、葉剣英、江沢民などの具体的な提案があった。また92年の汪・辜会談による「九二共同認識」"、賈(慶林)・江(丙坤)10項目共同認識のほか、今回の胡連5項目共同認識や胡宋6項目共同認識が加わった。台独反対や両岸統一達成という基本理念は共通、提案の内容は具体化、現実化されてきており、実行可能な段階にさしかかってきた。

問題は、誰が実行するか、である。中国大陸は用意万端だが、台湾側の政権担当者はなかなか乗ってこない。国民党や親民党は、立法院(国会に相当)では過半数を占めているが、あくまでも実権のない野党である。中国大陸との共同認識は、台湾の民意に否定できない影響を与えるが、機能化、体制化することはできない。連・宋訪中が野党陣営に有利に働くと期待されたが、その後5月14日の「任務型国民大会代表選挙」では、23.36%と投票率が低く、民進党に敗れた。

来る7月の国民党主席選挙で連戦は立候補しないと再度表明した。しかし、翻意があるかどうかは予測できない。訪中は連戦にとって有利に働くが、主席選挙の布石になるかどうかは予断を許さない。いずれにしても、7月以降の再生した国民党が如何に親民党と組んで、3年後の総統選挙で民進党に勝つかが優先課題である。国民党と親民党が与党になってはじめて、上記の共同認識を実行することが可能になるだろう。

【小結】

台湾海峡で軍事衝突が発生すれば、日米が直ちに巻き込まれることは間違いない。そしてアジア太平洋地域のみならず、世界の安定と繁栄にとっても、大きなマイナスになる。進行中の東アジアやアジア経済統合・経済協力体制も中断され、崩れてしまう。それだけに台湾海峡問題の平和解決が重要である。連・宋訪中により、近い将来軍事衝突が起きる可能性は薄らいだが、平和と協力、そして共生共栄の局面をいかに創出していくか。これから両岸関係者に課せられた歴史的使命である。




2005年5月29日




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