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AAN発
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日本の過去問う−米国内の動向

 米国で日本の過去を問い直す動きが目立っている。日中戦争や第2次大戦における日本軍の行動について、米政府は新たな史料を探し始めた。一方、捕虜や慰安婦にされた人たちが日本政府、企業に謝罪や補償を求めて裁判を起こしている。

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元米兵と家族の集会
米バージニア州で5月下旬、集会を開く元米兵と家族。フィリピン戦線で日本軍の捕虜になった人も多い=福田写す

◆「戦争犯罪」新史料探る

 今年初め、国防総省、中央情報局(CIA)、国務省など米政府の7機関に、分厚い書類が配られた。「第2次大戦における日本の戦争犯罪、同犯罪者、迫害及び略奪についての探索リスト」と表題がつけられ、次のような項目が並ぶ。

「米軍及び連合軍捕虜に関するあらゆる資料。大半が日本の虐待による被害を受けたため」
「生物・細菌戦についてのあらゆる資料。捕虜と民間人が実験材料にされたため」
「強制・奴隷労働、及び日本の慰安婦事業に動員された女性たちに関する記録」

 続いて、以下のような記録が65ページにわたって列挙されている。

・東条英機元首相らA級戦犯で始まり、七三一部隊の石井四郎隊長ら生物・細菌兵器の開発、実験を遂行した28人を含む人名リスト
・日本軍が捕虜や民間人を虐殺した128カ所の地名と日時
・多数の捕虜が命を落としたバターンなど「死の行進」5件。脱走を図った捕虜への死刑23件
・アジア各地から連合軍捕虜を日本へ運んだ輸送船71隻。日本内外で捕虜を収容し働かせた施設201カ所

 巻頭には前政権のバーガー大統領補佐官(国家安全保障担当)の指示がある。満州事変が起きた31年までさかのぼり、日本がかかわった戦争犯罪や迫害を裏付ける機密資料を見つけ、公開するよう求める内容だ。

 米国の政府機関はいまこのリストを頼りに、書庫の洗い直しにかかっている。昨年末「日本帝国政府情報公開法」が成立したのを受けた動きだ。

 米国は戦後、占領下の日本から軍や政府の文書を大量に持ち帰った。戦争犯罪の追及と軍事情報の収集が目的だった。

 50年代に入り、日本政府が資料返還を求めた。米軍の核実験で第五福竜丸の乗員の被ばく事件もあり、日米関係の悪化を懸念した国務省がCIAや軍、議会に働きかけ、返還の道筋を整えた。

 米側関係者によると、米軍は、将来も資料を利用できることを条件に返還に同意。政府は約1800万ページにのぼる総量の3%程度をマイクロフィルムに保存し、58年以降日本に送り返した。

 関係機関の代表者がつくる作業部会のメンバーたちは、この返還資料に強い関心を示している。「必要があれば、日本側にアクセスを求める可能性はある」と、同部会のスティーブン・ガーフィンケル議長はいう。

 米側には、日本が戦争関係の情報を十分に公開していない、との不満がある。司法省犯罪局のイライ・ローゼンバウム特別捜査室長によると、戦争犯罪を理由に米国が入国を認めない日本人は現在30人前後。最近、米独自の調査で数十人を追加したいと考えたものの、日本側が生年月日の照会に応じないため実現していない、という。

◆元捕虜ら、補償求め提訴

「日本の政府と企業が事実を認めたら、それで水に流せるんだ」。ウェストバージニア州に住むエド・ジャックファート氏(79)は口を開いた。

 42年、陸軍の整備士として働いていたフィリピンで日本軍に捕らえられた。輸送船で川崎市へ送られ、三井系企業の作業場で3年近く、荷物運びなどをさせられた。

 食事も満足に与えられず、米軍の爆撃の最中も仕事の中断を許されなかったなどと主張する。

 三井の米国法人などを相手取り、強制労働で被った損害の賠償を求める訴えを起こす準備中だ。

 日本企業に対する同様の訴訟は99年以降、30件以上起こされ、約半数が連邦裁で棄却された。「サンフランシスコ講和条約で日本政府、国民に対する補償請求権を連合国と国民が放棄しており、この問題は決着ずみ」と主張する企業側が今のところ、勝訴している。

 だが、カリフォルニア州オレンジ郡の州上級裁は先月、原告の元捕虜と被告の日本企業双方に、和解に向けた話し合いを始めるよう求めた。一連の訴訟で和解が促されたのは初めてだ。

 ワシントンの著名な弁護士、マイケル・ハウスフェルド氏は元従軍慰安婦の女性15人の代理人だ。出身は韓国、中国、台湾とフィリピン。昨年9月、日本政府を相手取り賠償などを求める訴えをワシントンの連邦地裁に起こした。

 ハウスフェルド弁護士は「兵士たちの行動ではなく、人権侵害を問題にしている」と話す。条約などに基づく「国家の免責」を掲げ、棄却を求める日米両政府に正面から挑戦してきた。

 長年米国に駐在した日本政府関係者は「いくら訴えられても、講和条約でつくられた秩序を壊すわけにはいかない」と語る。「当時の日本としては巨額の賠償を支払い、国と国の間で決着した。今から個人補償となれば、また財政に大きな負担がかかる。国民はそれで納得するだろうか」と疑問を投げる。

 日本の国会議員が昨年11月、国立国会図書館内に「恒久平和調査局」を設け、戦争被害の実情を究明するための法案を超党派で提出した。「惨禍の実態を明らかにして国民の理解を深めて次代に伝え、アジアを始め世界の人々との信頼関係をつくる」との目的からだ。

<日本帝国政府情報公開法> 民主党のダイアン・ファインスタイン議員(カリフォルニア州選出)が米上院に提案し、00年に成立、今年3月に発効した。31年9月(満州事変ぼっ発)から48年末までを対象に、日本帝国などの命令を受け、人体実験や迫害を命令・教唆・援助あるいは加担したと米国政府が認定したあらゆる人物に関する機密記録を米政府の保管資料から探し出し、公開するよう定めている。

 これらの内容は98年に米議会で成立したナチス戦争犯罪情報公開法とほぼ同じ。ファインスタイン議員は、人種や性、障害などによる差別問題に取り組んできた。立法の背景にアジア系米国人の動きもあるが、国際人権法の専門家グループが主導的な役割を果たした。

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