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The Asahi Shimbun Asia Network
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AAN発
アジアの環境協働管理を
為替取引税で貧困対策を
明日香壽川
AAN客員研究員(東北大助教授)

 アジアの経済発展はめざましい。それでも、1日1ドル以下で暮らす「絶対的貧困層」のうち、4人に3人がアジアの農村や都市のスラムに集中している。

 貧困と環境悪化は悪循環に陥りやすく、一方が他方を加速する。例えばアジアの大都市における人口爆発・都市環境の悪化と、それと表裏一体で進む農村の荒廃・自然破壊は、いずれも根っこに貧困が横たわる。

荒廃進む農村

 都市への人口集中の源流をたどると、市場原理に振り回され、荒廃が進む農村がある。アジア通貨危機で燃料や肥料が高騰し、耕作を続けられなくなった農家が続出した。安価な農産物が海外から流入すれば、多くの農家が仕事を失う。余剰労働力となった農民は、新たな生活の糧を求めて都市に移り、都市環境悪化が加速される。

 農業を続ける人たちは、価格競争で生き残るために、土地の適性を無視した非持続的な農業を行わざるをえない。それでも農村の貧困、都市への集中は止まらず、都市も農村も貧困と環境悪化に悩まされるという二重苦が続いている。

 環境悪化による健康被害も深刻だ。貧困層の多くは、調理や暖房に最も安価な燃料である石炭を使う。地球温暖化の原因となる二酸化炭素のほか、酸性雨をもたらす硫黄酸化物、煤塵(ばいじん)などの大量排出を招く。煤塵に含まれる有害物質は、調理を担う女性や子供の呼吸器官をむしばむ。衛生状態の悪い農村もスラム街も、感染症の温床になる。

 環境悪化と貧困の悪循環で被害が集中するのは、女性、子供、疲弊した生態系など、社会における「脆弱(ぜいじゃく)な存在」だ。アジアの未来を考える時、この悪循環を断つ政策を構築していかなければならない。

 まず注目したいのが、通貨危機を未然に防ぎ、貧困対策や環境保全の財源となりうるトービン税だ。ノーベル経済学賞を受けた米国の学者、ジェームズ・トービンが提唱した国際的な税制度で、毎日100兆円に上る国際為替取引に、例えば0.1%の税率をかける。投機目的の短期資金移動を抑止する効果を期待できるうえ、年間約15兆円に上ると予想される税収を国際機関などを通じて環境保全や貧困削減に充てられる。

仏では法律化

 フランス下院は昨年11月、欧州連合諸国が足並みをそろえることを前提にトービン税の導入を法律化した。カナダ国会は99年、世界で初めて「早期に導入すべきだ」との決議を採択した。日本での動きは鈍いが、むしろ日本の音頭取りで、トービン税を財源にしたアジアの貧困・環境戦略を始動させることができれば、アジアの人々から歓迎されるだろう。

 地球温暖化対策を財源にする手もある。京都議定書のルールでは、先進国が途上国で地球温暖化ガス排出削減を手伝った場合、その削減量をクレジットとして取引市場で売買できる。アジア各国がクレジット取引量の一部を自動的に積み立てて、他の環境問題の解決にも使える基金をアジアに作るのも一案だろう。

 途上国への環境保全技術の技術移転も大事だ。特許権は企業利益にとって重要なのは言うまでもない。だが、貧困が原因で環境保全技術を利用できない状況を放置しては、環境悪化と貧困の悪循環は断ち切り難い。

 エイズ治療薬で実現しつつあるように、緊急度の高い環境保全技術だけでも、特許使用料などを軽減する仕組みを検討したい。貧困と環境悪化の悪循環は、アジアが直面する最も深刻な人道問題でもあるからだ。

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