米ブッシュ政権の動きは、単独行動主義というより一国超大国主義という方がぴったりする。弾道弾迎撃ミサイル(ABM)制限条約の脱退通告や核兵器態勢見直し(NPR)、軍事費の大幅増額……。もしこうした一国超大国の突出ぶりが続くなら、冷戦時代の旧ソ連のような対抗パワーの分立が心配になる。
とりわけ米新戦略の核心に位置づけられる中国との関係が、アジア地域協調の成否に大きく響くだろう。それだけに米中対話の透明性確保と米国の一国超大国主義の克服が重要課題となる。
一国超大国ぶりを象徴するブッシュ政権の軍事費膨張はすさまじい。新年度国防費(3793億ドル、前年度実績見込み比15%増)は冷戦期の年平均(3441億ドル)を超える。巡航ミサイルの増産など反テロ戦争向けのほか、ミサイル防衛や無人攻撃機の開発など未来戦への資金投入も巨額にのぼる。
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1月発表の米国防総省の核兵器態勢見直しは生物化学兵器庫への先制核使用を想定していると報じられたが、本質的にはミサイル防衛の開発・配備を急ぐブッシュ政権の方針の具体化。相互確証破壊(MAD)戦略は冷戦時代の遺物だから、これを担保してきた米ロ間のABM条約は廃止し、ミサイル防衛導入で「ならず者国家」の攻撃に備えようという言い分である。米軍産複合体の意思でもあるのだろう。
ロシアのプーチン大統領は昨年12月、ABM条約脱退の米側通告を甘受した。「脱退は間違っているが、それでロシアは脅かされない。ロシアの核抑止力を無力化するようなミサイル防衛技術は存在しないからだ」
だが中国は反対した。ブッシュ大統領は江沢民国家主席にかけた対ロ通告の事前説明の電話で、冷戦時代にもなかった米中間の戦略兵器協議の開始を提案。しかし中国はロシアと違い、現有核戦力が米ミサイル防衛網によって無力化され得る水準にある。台湾配備も恐れているから慎重だ。
ABM条約脱退の手続きが取られた以上、米中戦略対話の進展を望みたいが、そのうえでの懸念がある。米戦略国際研究所(CSIS)パシフィックフォーラムのコッサ代表は2月の論文でこう指摘した。「多くの米高官はミサイル防衛の動向とは関係なく、中国の戦略核戦力の増強は避けられないと考えている」
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次は、米ミサイル防衛網と中国核戦力増強をどちらも容認する軍拡シナリオが考えられる。そんな大国の都合で事が運べば、核兵器態勢見直しにある「必要なら核実験再開」の伏線が表面化し、核不拡散の国際枠組みは甚大な打撃を受ける。
ブッシュ政権は包括的核実験禁止条約(CTBT)を死文化し、生物兵器禁止条約の検証制度に異議を唱えるなど、目先の国益を理由とした国際協調からの逸脱が目につく。大統領自身が好んで用いる「善か悪か」「反テロかテロリストか」という極端な二元論は、議論の深化を封じる危険性を伴う。もっと問題なのは「善」を決めるのは米国という姿勢である。
米政権は反テロ戦争の第2段階に入っている。だがその一国超大国の突出を改めないなら、かえって不安定を生む一因になるのではないか。
「テロが文明の否定であることは明白。しかしテロの根にある地球的な不平等と抑圧の体系を黙視、黙殺しているのが我々の文明そのものではないか?」(坂本義和東京大名誉教授)
こんな懐の深い議論を進め、対決型の二元論を転換するよう、戦時が続く米国民に求めたい。