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AAN発
アジアが繋がる  FTA新時代
国際競争主舞台に

戦略の要 日本企業をFTA後押し

セイコーエプソンのプリンター生産は、部品の特性に応じてアジアの工場を使い分けている。最終組み立ては中国・深センの工場。梱包(こんぽう)部品やラベル類は深セン周辺の取引先から、電気系部品は東南アジアの日系企業から調達する。印字の精度を左右するヘッドやカートリッジは日本の自社工場と協力工場の製品だ。

深センとタイでハードディスク駆動装置(HDD)工場を新増設している日立製作所も、使い分けが明白だ。深センは、中国に工場を構えるパソコンメーカー向け。タイでは、生産現場の熟練が求められる小型・高性能HDDを多品種少量生産する。DVDレコーダー用やデジタル音楽プレーヤー用が中心だ。

東南ア「熟練」

世界の工場と化すアジアの中では「得意技」が生まれている。工場労働者の勤続期間が短い中国は組み立てに、比較的長い東南アジアは熟練を要する部品に、そして先行する日本は精緻(せいち)な技術を要する高付加価値品に強みを発揮する。そんな特徴を踏まえて、工場間を繋(つな)ぐ企業が増えている。

工業生産の厚みに加え、成長する市場を兼ね備えるアジアは、グローバル企業にとって魅力が大きい。ドイツの電機大手シーメンスは中国だけで2万人の従業員を擁し、通信、医療機器、家電など東アジアで売り上げの1割を稼ぐ。タイではゼネラル・モーターズ(GM)やBMWなど自動車大手が生産を本格化させている。中国、マレーシア、ベトナムなどに進出している韓国のサムスン電子も「需要のある所で生産する方針」。

トヨタ自動車は、海外生産の効率化・低コスト化を追求、「IMV」(新国際多目的車)で部品の調達から生産、販売までを海外で完結させようとしている。8月末にタイ・バンコクで発表した新型ピックアップトラック「ハイラックス・ヴィーゴ」はIMV第1弾。価格が39万1千バーツ(約105万円)からで、前モデルより最大1割安い。

工場の再編も

日本からタイに部品を輸入すると、約30%の関税がかかる。一方、東南アジア諸国連合(ASEAN)では域内の関税率を5%以下にする取り組みが進んでいる。タイで生産する自動車メーカーにとって、ASEAN域内での部品調達が競争力を左右する。トヨタはIMVで、6割程度だった現地調達率を一気に96%まで引き上げた。

今後の高級車種への展開をにらめば、高機能・高精度の日本製部品は海外でも必要になる。日本と東南アジアが自由貿易協定(FTA)で結ばれ、日本製部品を関税ゼロで手にするメリットは大きい。日本自動車工業会の小枝至会長(日産自動車会長)は今月6日にタイでタクシン首相に面会。「FTAはタイの自動車産業にとっても有効で、両国に利点がある」と訴えた。

電機業界にとってもFTAが戦略構築の重要な要素となる。

60年代以降、マレーシアやタイ、フィリピンと各国ごとに工場と販売網をセットで展開してきた松下電器産業は、アジア圏に147の子会社を持つ。中国国内だけで製造販売子会社が49社にのぼる。設備の重複などもあり、広域アジア圏で事業戦略を立て直している。

中国で工場を段階的に集約、杭州などを白物家電の巨大生産基地とすることにしたのは、その第一歩だ。将来は、ASEANでも同様に集約生産基地を設け、中国|ASEANのFTA締結後には、両拠点を繋いで部品も流通させる体制を構想している。

松下にとってアジアは利益の45%を稼ぐ金城湯池だ。「FTAは海外戦略を根本的に見直すほどのインパクトがある。中国とASEANをくくった拡大アジア戦略で現地事業を強化していく」。松下の少徳敬雄副社長は、今月19日、東京都内のシンポジウムで語った。

異例のツアー

日本政府は年内合意を目指して、タイとマレーシア、フィリピンとFTAの交渉中だ。日本は3カ国に自動車、電機とその関連部品、鉄鋼などの関税撤廃を求めている。

11月2日、奥田碩会長を団長とする日本経団連の一行が、3カ国訪問に出発する。日本政府を後押しする異例のツアーだ。

「アジアとのFTAは未来への投資。日本の産業界にとって重い意味を持つ」。経団連のある幹部は、こう指摘している。

日本の特色「擦り合わせ」

藤本隆宏
 東大教授(技術・生産管理論)

東アジア各国のものづくりは、パソコンなどのように汎用(はんよう)部品の寄せ集めでつくる「組み合わせ型」か、自動車のように部品を設計段階から複雑に相互調整する「擦り合わせ型」かで特色を分ける方が実態に合う。

日本の製造業の特色は「擦り合わせ型」にあり、中国が台頭する中で、その強みがむしろはっきりしてきた。最終製品だけでなく、高機能の素材や部品にも「擦り合わせ型」がある。ハイテクかローテクか、で論じてきた従来のとらえ方はそぐわない。

中国は3、4年で農村に戻る出稼ぎ工員が主体なので「組み合わせ型」製品の大量生産に向く。工員の定着性は東南アジアの方が上で、何年も経験を積んで育った多能工を雇うなら中国よりタイの方が安上がりだろう。こちらは「擦り合わせ型」向きで、日本に近い、と言える。(談)





この連載は、秦忠弘、真田正明、藤谷健、山口博敬、前地昌道、江渕崇、佐藤泰、畑中徹、村上太輝夫が担当しました。朝日新聞アジアネットワーク(AAN)では「地域益―アジア型共同体への道」と題した特集を来春にかけ随時掲載します。

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