オーストラリア南東のメルボルンにある州立モナシュ大学。キャンパスの一角に地上3階、地下1階の「モナシュ・インターナショナル」の本部がある。同大が全額出資する企業で、留学生の受け入れやサービスを行う。スタッフは約300人。日本の大学の留学生担当部署はせいぜい数人ということを考えれば、目を見張る充実ぶりだ。
同大工学部2年の村山元康さん(22)は日本の高校を卒業後、同社が運営するモナシュカレッジを経て大学に編入。「カレッジで16カ月英語を勉強できたから、授業も問題なかった」と言う。
空港への出迎えから寮のあっせん、Eメールによる留学ビザ関係の情報提供、24時間の電話相談まで至れり尽くせりのサービスが提供される。
同社国際マーケティング部ディレクターのリンゼイ・イェーツさんは「留学生からの収入は大きいから」と話す。約4万9千人の学生のうち約9千人が留学生。授業料収入は、1人年間1万6千豪ドル(約130万円)から3万4千豪ドル(約280万円)に上る。
教授の一人は「教室にいる留学生たちを見ると、つい、『私のクラスには全額自己負担の学生が何人』と数えてしまう」と漏らす。
同大だけではない。
「留学生たちは『キャッシュカウ』(お金を出す牛)扱いだ」―。昨夏、新聞にそんな記事が載った。各大学は年々上がる留学生の授業料に財政的な依存を深めている、というのだ。
豪国内の大学・大学院に在籍する留学生は13万6千人。海外校舎などを含めると、30万人を超える。03年の教育の「売上高」は5・6億豪ドル(約460億円)。サービス産業の15%を占め、観光、交通に次ぐ3位。政府は留学生教育を「重要な産業」と打ち出す。留学生は教育という商品を買う「顧客」なのだ。
80年代後半に豪政府は、全額税金でまかなっていた教育費の一部を学生側に負担させた。同時に、留学生は全額自己負担が原則になった。留学生の定員制限が廃止されるとともに、大学は授業料収入を求めて受け入れを加速させた。
オーストラリア政府国際教育機構(AEI)は米英など競争国の動向や戦略分析のリポートを毎年作成。「英語・割安・安全」という強みにさらなる競争力を加えようとしている。97年には「留学生のための教育サービス法」を制定し、教育機関の登録制度や第三者評価機関を置くなど「品質保証」に余念がない。
AEIは一昨年、カンガルーをデザインした「スタディー・イン・オーストラリア」ロゴをつくった。教育を「ブランド」として売り込む。その世界戦略の象徴だ。
◇
オーストラリアは、各大学以外に国内38大学が出資するNPO法人「IDP」が留学情報の提供や学生の募集、あっせんなどを担っている。
「5人に1人はIDPを通じて留学する」。統括責任者のジャッキ・グリーンさんは胸を張る。拠点となる海外事務所は55カ国にあり、今年は各国で70回以上のセミナーを開く。その場で学生を選考する場合もある。
豪への留学はIT(情報技術)やビジネス関連が多いが、北京五輪を控える中国ではスポーツ関連の学科に、米国では映画やテレビ関連のコースに力を入れるといった具合に巧みに戦略を立てる。グリーンさんは「小さな市場であっても、需要に細かく応じられることが大切だ」と話す。
― メ モ ―
世界の留学生数は今後どうなるのか。
02年の190万人から25年には720万人と飛躍的に拡大すると予想するのが、
オーストラリアのNPO「IDP」の02年版報告書だ。
その時点でアジア人留学生が占めるのは7割。中でも中心は中国とインドとみられている。
ビザ発給条件を緩和/在外公館でPR
韓国
韓国政府は昨年、留学生を誘致する総合計画「スタディー・コリア・プロジェクト」を発表した。10年までに、留学生の数を現在の約3倍の5万人にする計画だ。具体的な数字を挙げて留学生政策を発表するのはこれが初めて。留学生獲得競争に、韓国も名乗りを上げた。
「韓国は世界で最も高齢化が早く、将来の労働力が不足する。そこで外国の優秀な人材を導入しようというのが目標の一つです」。教育人的資源省(文科省に相当)の姜永順(カン・ヨンスン)・国際教育協力課長はこう話す。
受け入れと送り出しの数の不均衡も課題に挙げる。受け入れ数は、03年度には中国からの留学生が前年度比で6割増えるなど急増している。政府のキャンペーンとアジアでの「韓流」ブームが背景にあるという。それでも04年の受け入れが約1万7千人なのに対し、各国に留学した韓国人は約18万人(語学研修を含む)に上る。
留学生の受け入れ拡大に本格的に乗り出した01年、政府は留学ビザ発給に必要だった保証人制度を廃止した。申請書類も3、4種類に限定し、共通化。今回の計画では、韓国政府が費用を負担して招く留学生を大幅に増やし、中国、ベトナムなどの在外公館に教育担当官を増員して広報・相談態勢も強化する。また、大学が企業と共同で留学生データベースを構築したり、英語による授業を増やすなどの誘導策も並べている。
少子化の影響が深刻な大学側はすでに留学生獲得に乗り出している。特に首都圏の私立大学や地方の大学は、中国との合作や中央アジアで留学生選抜を実施するなど、リクルートに力を入れる。
■米国への03年度留学生数の出身国・地域別内訳■
順位 出身国・地域 留学生数 前年度比(%)
1 インド 79736 6・9
2 中国 61765 ▼4・6
3 韓国 52484 1・9
4 日本 40835 ▼11・2
5 カナダ 27017 1・9
6 台湾 26178 ▼6・6
7 メキシコ 13329 4・1
8 トルコ 11398 ▼1・7
9 タイ 8937 ▼10・5
10 インドネシア 8880 ▼14・9
11 ドイツ 8745 ▼6・0
12 イギリス 8439 1・4
13 ブラジル 7799 ▼7・0
14 コロンビア 7533 ▼3・1
15 ケニア 7381 ▼6・1
16 香港 7353 ▼9・0
17 パキスタン 7325 ▼9・8
18 フランス 6818 ▼5・6
19 マレーシア 6483 ▼1・7
20 ナイジェリア 6140 5・6
(注:米国際教育研究所調べ。▼はマイナス)
|
― メ モ ―
留学生の受け入れでも米国が世界に並ぶ国のない「超大国」だ。しかし03年度、71年度以来となる減少を記録し、大きな注目を集めた。アジア出身者も軒並み大きなマイナスとなり、米大学関係者からは「優秀な頭脳が集まらなくなる」といった声も上がる。
原因は、9・11テロ事件以降のビザ発給の厳格化や英豪など他の英語圏諸国が留学生ビジネスに力を入れていることなどが挙げられている。