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AAN発
越境する文化 時空をこえて2

韓流と在日コリアン:隣国への目 隣人にも

桜井 泉
AAN「越境する文化」チーム

韓国語で落語 若者沸いた

公演後、韓国の人たちに囲まれ、記念撮影に応じる着物姿の笑福亭銀瓶さん=ソウル市内で、桜井泉撮影

落語家の笑福亭銀瓶(ぎんぺい)さん(38)は昨年9月、ソウルの大学で韓国語による落語公演に挑んだ。ピンク地の着物、派手なアクション。歯切れのいい言葉。初めて落語を聞いた若者たちを沸かせた。

神戸生まれの在日3世。日本人と結婚、「生活に便利だから」と日本国籍に変えて10年になる。

韓流ブームで、カラオケに行けば、日本人が「冬のソナタ」のテーマソングを韓国語で歌う。ちょっと刺激的だった。一昨年見た崔洋一監督の映画「血と骨」にも興奮した。船の上で人々が大阪が見えたと喜ぶシーン。「自分にも同じ血が流れている」。すぐにハングル講座のテキストを買った。

落語を韓国語でやりたくなった。在日の友人に翻訳してもらい、覚えた。大阪の朝鮮高校での公演を経て韓国に乗り込んだ。韓国人記者からは「韓国籍にもどす気はないか」と聞かれたが、そのつもりはない。「祖国は日本」。でも「言葉ができて、韓国も祖国と言えるようになりたい」と個人レッスンを受けている。

高座の着物姿は、ときに韓国人に植民地の記憶を呼び起こす。しかし学生たちは、日本の今を知りたがり、熱心に質問してきた。

「在日だから両国のいいところが分かる。韓国落語のレパートリーを増やし、日本文化のすばらしさを伝えたい」

日本には韓国・朝鮮籍の人たち約60万人が住む。多くは、本国から押し寄せた映画やドラマの人気に戸惑いつつも歓迎している。

東京都内の在日3世の女性会社員(26)は2年前、韓流スターのファンサイトを立ち上げた。「私の国にすてきな人がいることを知らせたい」。小学校から大学まで16年間、朝鮮総連系の民族学校で学んだ。韓国のサイトから最新情報を翻訳、日本人のつくるサイトより充実しているのが自慢だ。

北朝鮮に4回行ったが、韓国へは一昨年8月が初めて。「祖父母の生まれた地。もう一つの祖国です」。その後、ファンの集いなどで4回、訪ねる。「ドラマで見慣れた活気ある街。母国語で話せる。一度住んでみたい。海外にも自由に出たい」と昨年、朝鮮籍から韓国籍に変えた。でも、「私自身は変わっていない。朝鮮と韓国はどちらも祖国、矛盾しない」。

故郷の思い出、重ねる年配者

「朝鮮文化とふれあうつどい」では民族楽器の音高らかに踊りが繰りひろげられた。「韓流を機に在日の存在にも理解を深めて欲しい」。関係者の思いだ=東京都府中市で、郭允撮影

年配の人も韓流に思いを寄せる。都内に住む在日朝鮮人で60代の主婦、金さんは、ドラマ「チャングムの誓い」全54話のDVDに1週間、夢中になった。大阪生まれ。戦後すぐ、小学校1年で韓国・木浦のおじの家に預けられた。しかし2年後、事情があって両親が残る日本に戻った。「チャングム」で主人公が野草を集める場面では、春に出かけた山菜採りを思い出す。短くも楽しかったふるさとの記憶が、鮮明になる。

朝鮮総連の活動に携わったこともある。02年、日朝首脳会談で金正日(キムジョンイル)総書記が日本人拉致を認めた。バッシング報道の洪水。日本人からは「あなたを信じてきたけど、これってなあに」と言われ、むなしかった。そんなとき、困難に出合っても、けなげに生きるチャングムから元気を与えられた。

昨年11月、東京都府中市で開かれた「朝鮮文化とふれあうつどい」。立川市の西東京朝鮮第一初中級学校の生徒が民族舞踊を披露した。北朝鮮の核開発や拉致問題で、罪のない子供が嫌がらせされる。在日を理解してもらおうと始め、7回を数えた。

会場にも韓流の波は寄せていた。テントの下でヨン様のブロマイドを売る母親は「日朝関係もよくなればいい」。慎基成(シンギソン)・校長(44)は、「ブームに終わらせてはいけない。私たちがなぜ日本にいるか、考えて欲しい」と語る。

ヨン様の陰に置き去りの過去

韓流の中で、差別の壁は、なかなか低くならない。30代の在日の女性は、昨年、都内に料理店を出そうとして不動産業者から「日本名にするか、日本人の保証人を立てるように。本名で借りるなら、新宿・職安通りに行けばいい」と言われた。「ヨン様と私たちは、どこが違うの」と憤る。

〈この国はなにも変わらぬ街角に韓国料理店はオープンしても〉

三重県在住の歌人、李正子(イチョンジャ)さん(58)は、短歌で日本社会の矛盾を告発してきた。

「韓流が人気を集めても、過去にあったことを無かったことにはできません」

李さんは、韓国ドラマをみるとつい涙ぐむ。貧しい暮らしと差別の中に生きた父母、雨が降ると水につかる集落、帰国船で北朝鮮に渡った幼なじみ。「韓流の華やかさの陰で忘れ去られた多くの在日をいとおしく思い出すから」

作家、金石範(キムソッポム)さん(80)は日本人を「過去抹殺症」と批判するが、韓流には希望を見いだしている。「おばさんが韓国のにいちゃんとつきあう。いいものはいい。その素朴さがいい。日本の男は嫉妬(しっと)しているかもしれないけど」

従来とは比べようもない数の日本人が隣国に目を向けている。「歴史認識の土台になり、過去を振り返ることにつながる」

長老作家は「在日に国はない」と南北の政治の有りようを批判、「朝鮮語と言うか、韓国語と言おうか。胸が痛い」と分断を悲しむ。しかし「政治にできないことをヨン様がやってしまった」と文化の力には率直に驚いている。

<朝鮮半島の植民地化と在日コリアン>

日本は1910年に朝鮮半島を植民地とした。その前後から朝鮮人は、就職や留学で来日するようになった。日本が朝鮮半島で行った土地調査事業によって土地を失った人、戦争の激化で日本各地の炭鉱や軍需工場へ強制連行された人も少なくない。終戦時に日本にいた朝鮮人は約200万人にのぼったとされる。戦後、米国とソ連が対立するなか、48年に韓国と朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)が建国され分断国家となる。在日団体も韓国を支持する民団と北朝鮮を支持する朝鮮総連とに分かれて対立した。50年には朝鮮戦争が起き、朝鮮半島が戦場になったことから帰国をあきらめた人もいる。

インタビュー:岩渕 功一さん
排他的な境界 破る契機に

いわぶち・こういち 早稲田大助教授
AAN客員研究員

60年生まれ。著書に「トランスナショナル・ジャパン――アジアをつなぐポピュラー文化」など。

日韓市民の交流と相互理解はこの10年で大きく発展した。その原動力となったのは、02年のワールドカップ共催と韓流という文化事象だ。

国を単位とした国際交流の枠組みから見落とされがちだが、韓流は在日コリアンの人々にも様々な影響を与えている。韓国の映画やドラマは、韓国・北朝鮮の帰属(意識)を超えて、自らの朝鮮半島とのつながりについて記憶をたどったり、新たな発見をしたりする機会を日常的なものにした。韓国の文化発信とイメージ向上は、在日として生きることを力付ける一方で、厳しい現実が変わらぬことに憤りを感じさせてもいる。

確かに、韓国や韓流と結び付くことで、「在日コリアン」という存在はより好意的に認識されるようになった。しかし、それが、現在の韓国という国や文化とのつながりに重きが置かれたものにとどまるなら、「在日性」に刻まれた歴史的現在の視点が抜け落ちてしまう。韓国や韓流のレンズを通しては、植民地支配の苦難を背負って日本に移り住み、朝鮮半島と日本のはざまで生まれ育った人々の複雑な経験と葛藤(かっとう)は理解できない。なによりも、歴史に根ざした差別が今も続いている。

韓流人気の傍ら、北朝鮮の拉致問題や核開発への反感が高まり、韓国(籍)と朝鮮(籍)との区分けが強まっている。映画「GO」や「パッチギ」など、朝鮮学校の学生や家族を描いた「新しい在日物語」が好意的に受容されても、現実には、その人たちへの風当たりが、韓流と対をなすように強まっている。

しかし、金石範氏が光を見いだすように私の調査でも、韓流をきっかけに、日本と朝鮮半島の近現代史に目を向けた日本の女性視聴者は多い。そして、「韓国・北朝鮮は隣国だが、在日コリアンは同じ社会で共に暮らす隣人」ということの重さに気付き、彼ら彼女らが日本社会において正当な市民として扱われていないことに疑問を発している。

文化の越境は、排他的な国民の境界を突き破る歴史的・社会的な想像力を培う契機ともなる。草の根で起きている意識の変化をいかに社会の変化につなげるか。韓流が私たちにくれた宿題だ。(寄稿)

2006年1月16日


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