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AAN発
温暖化防止



温暖化防止カギを握るアジア(下)


「CO2排出権」ブーム



売却量、中印が圧倒的

タイの首都バンコクから北東約100キロにあるサラブリ県カムプラン村。大手製糖企業タイルンルアングループの工場に入ると、サトウキビの搾りかす(バガス)が高さ十数メートルまで山積みになっていた。土色の山に触ると、ごわごわした繊維状だ。

工場内の発電用燃料など用途が限られていたバガスに利用拡大の道が開けたのは、日本に自動車燃料用のバイオエタノールをつくる技術があることを知ったからだ。大手商社丸紅と組み、独立行政法人の新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の事業の一環として今月にも新工場建設が始まる。

燃料市場への進出に加えて関係者が狙っているのが、クリーン開発メカニズム(CDM)による「排出権」の取得だ。途上国で温室効果ガスを減らした場合、削減分を排出権として獲得でき、売買が認められる。

同社の計画では、砂糖をつくる過程で出る糖蜜も使って08年初めから年間3万6000キロリットルのエタノールを生産。これがガソリンに10%まで加わって燃料になる。エタノールと混ぜ合わせることでガソリン使用量が減れば、それに見合うだけ二酸化炭素(CO2)も減らせる。ウグリット・アサダトン取締役は「CO2の削減量は年約5万トン。新事業を起こせたうえ、環境にも貢献できてうれしい」と話す。

NEDOは新技術の設備など総事業費の8割を負担しており、CDMが認められれば排出権は日本政府が取得する。

京都議定書で日本は08〜12年の間に90年比6%の削減義務を負うが、国内対策だけで達成は難しく、1.6%分はCDMなど海外との取引で稼ぐ。そこでNEDOが政府の排出権買い取り窓口としてCDMになりそうな事業取り込みに乗り出しているというわけだ。

世界銀行によると、06年1〜9月のCDM取引はCO2換算で約2億1400万トン、金額は約22億6000万ドル(約2667億円)に上る。売却量では中国、インドなどアジアが他の地域を圧倒しており、ブームともいえる状況だ=別表上。

◆キーワード
<CDM> クリーン開発メカニズムの略。発電所での省エネや廃棄物から出るメタンガス回収、もみ殻の発電など事業は多岐にわたる。国連CDM理事会によると、21日現在で410件が登録され、1300件以上が登録を目指している。
 CDMの取得は国連が定めた厳密な方法に従って関係企業が申請し、途上国、先進国の政府の承認、国連への登録など煩雑な手続きが必要だ。
 価格形成は活発化している欧州のCO2排出権の取引市場の影響が大きい。同市場では現在、CO21トン当たり8ユーロ(約1210円)ほどで売買されている。



日本、欧州勢と奪い合い

そのアジアから売りに出たCDMを巡って激しい争奪戦を繰り広げているのが英国、イタリアなどの欧州勢と日本だ。

10月26、27日、世銀の主催で北京市内で開かれた排出権の見本市「カーボンエキスポ」は、44カ国・地域の1000人を超す関係者の熱気に包まれた。会場の一角にはユニオンジャックの旗を掲げた英国企業のブースが軒を連ね、即席の商談があちこちで始まる。日本の電力会社や商社、銀行などの参加数は意外に少ない。

05年の購入量のシェアでは日本が43%を占め、欧州勢は50%。しかし06年1〜9月では英国が45%、イタリア19%など欧州で9割近くに達した。日本のシェアは8%に落ち込み、欧州と大差がついた=別表下。

その理由として、関係者は英国シティーの金融業界が参入し、好条件の買い取り価格を示したこと、オランダなどが購入のための政府基金を設立したことなどをあげる。インドネシア技術評価応用庁の関係者は「日本企業は細部を詰めるまで契約しないが、欧州勢は大枠の合意だけでどんどん購入を決めていく」と取り組む姿勢の違いを語る。



持続的発展、促せるか

インドネシア・スマトラ島アチェ地方サバンの村に持ち込まれた太陽光調理器。CO2の削減量を正確に計るため、日々の使用記録が求められるなど住民の負担もある=脇阪紀行撮影

これだけのCDMブームにもかかわらず、関係者からは不満が漏れる。地球環境を守り、途上国の発展を促すというCDM本来の目標を実現するための道筋が見えにくいからだ。

例えばCO2を吸収する森林の減少を食い止めるためには植林への支援が欠かせない。しかし、インドネシア環境省のマスネリヤルティ副大臣は「植林事業を国連はなかなかCDMとして認めようとしない」と訴える。火災などのリスク管理や木が老いるとCO2を逆に排出するなどの問題があるためという。

同国政府がこれまで承認したCDMは8件。セメント、電力、天然ガス生産など大半は大企業が持ち込んだ。同副大臣は「中小企業はCDMの利点がまだのみ込めないうえ、手続きも複雑すぎる。技術や資金を最も必要とするこういう企業がCDMから落ちこぼれないようにしたい」と話す。

同国で唯一、小規模タイプのCDMがスマトラ島アチェ地方サバンでの太陽光調理器の配布事業だ。電気のない農漁村の住民は料理のために近くの森林の木を切っていた。太陽光を1カ所に集めた熱を使えば、調理器1000基で年約3500トンのCO2排出削減が期待できるという。

ドイツ人実業家クラウス・トリフェルナー氏は「森林保護と貧困撲滅のためにCDMを活用したいのに、工業がらみの大規模な事業が多く、草の根の住民のためのプロジェクトが認められにくい」と嘆く。

CDMが多国籍企業のマネーゲームに使われ、途上国の持続的な発展が置き去りにされかねないとの危機感が感じられた。

(AAN主査・森治文論説委員・脇阪紀行)



途上国支援になるCDMを


馬奈木 俊介(まなぎしゅんすけ)さん
横浜国立大助教授
AAN客員研究員

75年生まれ。米国・サウスカロライナ州立大学講師、東京農工大学助教授を経て05年から横浜国立大学経営学部助教授。専門は環境・エネルギーマネジメント。中国やインドネシアなど途上国の環境政策にも精通している。

CDMは通常、先進国と途上国がともに取り組むのが一般的だ。ところが最近、途上国の企業などが自前で技術も資金も調達し、単独で行う「ユニラテラル」型が増えてきている。削減できたCO2の排出権はCDMに登録されたあと、先進国側に売買する仕組みだ。

私がインド・バンガロールで見聞きした事業もその一つだ。廃材などバイオマス資源を熱分解でガス化し、電気のない貧しい村の家庭に供給。煮炊きなどに使われているという。

CDMは、温室効果ガスの削減費用の高い先進国が割安な費用で排出を抑え、途上国は技術的、資金的な援助を受けられるという長所がある。

一方でさまざまな欠点も露呈している。温室効果が格段に大きい代替フロン1トンの削減はCO2何万トン分にもなるため、少ない費用で膨大な排出権が得られることからCO2の削減が後回しになりやすい。先進国が途上国での安易な削減に頼り新技術の開発が遅れる懸念もある。

ユニラテラルCDMも排出権の価格変動を見ながら買い手を探せるので高収益をねらうあまり事業が乱立するなどの課題がある。だが、途上国の産業発展や一過性でない温暖化対策というCDMの目的に沿うという意味ですぐれた点も多い。

大量の排出権を得たい先進国が手をつけにくい小規模のプロジェクトが可能で、同じ国内で開発の遅れた地域に技術が行き渡ることなども期待できる。バンガロールの事業も成功すれば雇用、人材育成、エネルギーの供給などに役立つはずだ。

日本は積極的にユニラテラルCDMの排出権を買い取ってはどうだろうか。そうすれば自国の温室効果ガス削減につながるうえに途上国の支援にもなる。

京都議定書の削減期間である08〜12年以降もCDMは存続するだろう。国連としても、単なる削減策としてではなく、途上国の持続可能な発展や長期的な温暖化対策の観点からルールを見直していくべきだ。


2006年11月22日


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