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朝日新聞アジアネットワーク
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朝日アジアフェローから

新首脳の波 日本のビジョン世界に示せ

国分良成/慶応義塾大法学部長

2008年01月14日

写真:国分良成さん

 昨今、あらゆる分野で日本の将来を悲観する声が大きくなっている。確かに、世界における日本のプレゼンスは急速に小さくなっているように思われる。しかし、昨年から今年にかけてのアジア太平洋地域の政治状況を見渡すと、実は日本にとって好機が到来しているのではないか。

 この地域では現在、どこもかしこも新たな政治的局面が生まれつつある。以下に、域内の状況を概観してみよう。

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 韓国では2月に保守系の李明博氏が大統領に就任する。市民派を自任した盧武鉉大統領だったが、結局は市民から見放された。盧大統領と日米両国はかみ合わないことが多かったが、これで少しは話がしやすくなりそうだ。

 中国は今年3月の全人代で胡錦濤国家主席と温家宝首相が再選される予定である。格差、環境をはじめ中国が抱える問題は山積みだが、今年は8月の北京オリンピックに国家の威信のすべてをかけるに違いない。

 台湾では陳水扁総統の任期満了により、3月に総統選が実施される。民進党の謝長廷氏と国民党の馬英九氏の一騎打ちだが、対中宥和(ゆうわ)派の馬氏が有利と伝えられる。謝氏にしても対中強硬派ではない。問題は同時に実施される予定の台湾名義での国連加盟申請の是非を問う住民投票だ。これをめぐって中台間が緊迫化する可能性はある。

 タイは最近の総選挙で06年9月のクーデターで追放されたタクシン前首相派の国民の力党が勝利した。だが今後の政局はタクシン氏の去就も含め不透明だ。

 オーストラリアでは11年続いた保守系のハワード政権が総選挙で敗北し、労働党のラッド党首が首相の座についた。新首相が従来の対米政策を変えることはなかろうが、経歴では中国とのつながりが深い。

 米国の大統領選は今年11月だが、すでに共和・民主両党の候補者指名選挙は始まり、国内は大統領選一色に染まっている。半面、現職のブッシュ大統領の存在感は薄れる一方だ。この状態でブッシュ政権は北朝鮮問題の解決を急ぐのではとの観測がある。

 このようにアジア太平洋を一周すると、今年1年の輪郭がくっきりと見えてくる。多くの地域で新しい指導者が出現したか、あるいはそのプロセスにある。これは仕切り直しという点で難しさもあるが、同時に新たな国際関係を創造する絶好のチャンスでもある。近年テロや大量破壊兵器に加え、環境、エネルギー、格差・貧困、金融などの問題がグローバルな課題として急浮上し、迅速な対応を迫られている。各国はともに国内政治にのみ拘泥している場合ではない。

 日本はこの絶好の機会を逃すべきではない。では、いまわれわれは何をなすべきか。年頭にあたり、世界のなかで日本が特に主導力を発揮すべき外交課題をまとめてみたい。

 第1は7月の北海道洞爺湖での主要国首脳会議(G8サミット)へ向け、地球温暖化問題に対する日本の立場を真剣に固める必要がある。12月にバリ島で開催された国連気候変動枠組み条約締約国会議で、日本は自ら京都議定書の精神に抵触したと思われるような主張を行い、各国の不信を招いた。経済力が逓減しつつある日本にとって、自信を持つべき分野は環境問題をおいてほかにない。アジアをリードする環境先進国への道を究める決意と覚悟と努力が必要だ。

 第2は政府の途上国援助(ODA)の再活性化である。先進各国や中国、韓国が対外援助を急激に増加させているのに対し、日本だけが削減傾向にある。かつての援助大国の威容はすでにない。対中援助の終焉(しゅうえん)とともに他の援助まで削減してよいのか。世界の貧困や環境の問題は広がるばかりだ。日本は今でも米国に次ぐ世界第2位の経済大国である。もちろん現在のような苦しい日本経済のもとで、対外援助は善意だけでは続かない。むしろそれは実際にビジネスや利益を生む契機としても考えるべきだろう。でなければ世論の支持を得られない。

 第3は近隣の対アジア外交である。過去何年にもわたり、歴史問題によって日本は戦後積み上げてきたアジア外交の足場を弱体化させた。だが昨年末の福田首相の訪中と今春の胡錦濤主席の訪日、それに韓国新大統領との今後の首脳外交などにより、中韓両国との関係は安定化する可能性が広がった。ひよわな日本とアジアの関係をいかにして確固としたものにするのか、そのための仕掛けと制度作りが不可欠だ。特に若い世代の交流と信頼関係の構築がカギとなろう。

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 今後は、かつてのような日本のアジアにおける独占的優位性は望めない。しかし、間違いなく日本は環境、技術、安全、文化など多くの面で比較優位性をもっている。最大の障害はわれわれの心理的内向き傾向にある。日本は持てる資産と魅力を結集して明確な国家ビジョンを世界に示し、それを直ちに行動に移さねばならない。

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 こくぶんりょうせい 慶応義塾大法学部長(現代中国論、東アジア国際関係論)

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