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The Asahi Shimbun Asia Network
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 一線から
AANの研究チームが、取材・調査の過程で直面したこと、考えたことなどを、随時リポートします
おとぎの国のツバル
村田泰夫
「環境と開発」研究チーム

 管制塔らしき2階建て建物の屋根に赤旗があがる。ウーウーとサイレンが鳴ると、滑走路でボールを蹴っていた子どもたちがばらばらと散る。しばらくすると東の空に小型飛行機が姿を見せた。週に2回だけ国際便が飛来する際、ツバルの首都フナフティの空港で繰り広げられる光景である。

ツバルの首都フナフティ
海面上昇による水没が現実の危機として迫るツバルの首都フナフティ。2002年2月の大潮の時、道路からぶくぶくわき出た海水で、町の中はまるで洪水時のようなありあさま。バーベキューも水浸しの庭で肉を焼くはめに。写真は国際環境NGO、FoEジャパン提供。

 地球温暖化による海面上昇で最初に沈む(写真)といわれる南太平洋のサンゴ礁の小国、ツバルを訪れた。ツバルをご存じない方がほとんどだと思う。ニュージーランドとハワイのほぼ中間に位置し、海外との窓口は小型飛行機で南に2時間半飛んだフィジーとの空路だけ。輪のようなサンゴ礁の島9つからなる独立国だが、その面積は26平方キロしかない。伊豆大島の4分の1の面積だ。人口は1万1千人足らず。

 ツバルが世界に知られるようになったのは「.tv」(ドットtv)のおかげだ。インターネットでのツバル国の識別名称、日本でいえば「.jp」にあたるのは、国名のtuvaluからとった「.tv」である。これに世界中のテレビ関係者が目をつけ、「.tv」の使用権の争奪戦が繰り広げられた。2000年9月、米国カリフォルニア州のベンチャー企業が10年間5000万ドルで契約した。自給自足経済でとりたてて産業らしきものもなく、海外からの援助で国家財政をやりくりしているツバルにとっては、ものすごい大金である。この資金でツバルは189番目の国家として国連に加盟することができた。帯のような島を貫く道路が舗装されたのも、このドットtv資金が入ったからだ。

 この国は、なにごともミニチュアサイズだ。おとぎの国のテーマパークの趣さえある。いかめしさがなく親近感がわく。バスの待合所のような国際空港は、週2回の飛行機の離着陸時を除くと無人。空港から歩いて3分のところにあるのが、この国唯一のホテルだ。観光客の来るところでないので民営では成り立たないのだろう。国営である。フロントのおばさんたちの腰回りはコニシキみたいに大きいが、応対はやさしく、笑顔が美しい。

 両替をするため、入国してすぐ空港わきの銀行に案内してもらった。外階段をトントンと上がった木賃アパート風の建物の2階にあるのだが、「bank」の看板が見あたらない。カウンターの向こうの机にパソコンはあるが、事務所には職員が数人いるだけで閑散としている。日本の田舎の郵便局の方がずっとにぎやかだ。現地通貨で「tuvalu」と表示されているのはコインだけ。紙幣は「オーストラリア・ドル」を流用していて、独自のお札はない。両替明細書を見て驚いた。「the national bank」とある。中央銀行の本店だったのだ。

 国土が狭いので、取材は徒歩か自転車で十分だが、いまツバルで流行しているというバイクを借りた。韓国製の50ccバイクだが、日本でいう原付自転車だ。首都のある細長い島の隅々をめぐってもたった二十数分。この国の人たちはたいへんフレンドリーで、バイクで疾走していると、みな手を振ってくれる。るんるん気分で取材ができて楽しい。取材した役所は、首相官邸と外務移住省、環境省などだが、外務移住省は空港からバイクで2分、環境省はホテルから徒歩3分、首相官邸はそこから徒歩5分のところにある。外務移住省のナンバー2である事務次官は、はだしにビーチサンダル姿。われわれの取材を終えた夕方4時半、125ccのオートバイに乗って帰宅した。首相官邸は日本の建設現場にあるようなプレハブ建物で、入口はまるで民家の勝手口だった。

 首相執務室で、コロア・タラケ首相は温暖化で沈む危機に直面する島嶼国の立場をきちんと語ってくれた。「先進国が繁栄し多国籍企業が利潤を追求している影に、島嶼国の犠牲がある」と力説する首相は、アメリカのブッシュ政権を始めとする先進国の横暴と身勝手さを糾弾した。共感するところが多かった。

7月の4日間、楽しく過ごさせてくれたツバルだが、興ざめだったことがある。サンゴ礁の浜辺は美しいのに、ちょっと目立たないところにはごみが山積みにされているのだ。加工食品のほとんど全部が輸入で、食品のビンやビールの缶、それに建設廃材などが島のあちこちに捨てられている。ツバル政府もごみ対策に取り組み始めているが、効果が上がっているとは思えない。ごみとなる物は一切持ち込ませない、ぐらいの気構えで規制をしたらいい。そうすれば、つくりものでないテーマパーク国家と胸を張れると思う。

2002年7月25日
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